いじっぱりの模造紙












「あんた、なにしてんの?」

不意に声をかけられて顔を上げる。アリスちゃんに見下ろされていた。(あ、あ・・!あとちょっと、もうちょっとでスカートの中、が・・・・!)ちょっとずつ、身を屈めながら答える。

「え、えっと、のりづけ、を、」
「そんなの見ればわかるわよ!アリスちゃんはそうゆうことを聞いてるんじゃないの、なんで他のクラスのあんたがここにいんのって、聞いてるの!」
「えっ、いやあの、アリスちゃんのクラスの、手伝い、で・・・」
「はァ?・・・っていうかなにスカートのぞこうとしてんのよ!このヘンタイ!」

膝で思いきり蹴られた。はためくスカート、一瞬いちご柄の見えたような気がした。(いい、俺、もうこれだけで本望・・・!)そう思ったけれど、微かに見えたその柄は、アリスちゃんの向こうに貼られた模造紙だった。(・・・なんて、なんて不条理な世の中なんだ・・!)

アリスちゃんはしゃがみこんで、廊下に広げた模造紙を一瞥して言った。

「なに、もしかしてあんた、ずっとうちのクラスの手伝いしてたわけ?」
「う・・・たまには自分のクラスも行ってた・・けど、うちのクラス、もうけっこう進んでるからさ、そこまで急いでやることなくって。それに、アリスちゃんのクラスは展示だから、こっちの方が前準備が大変だろ?」
「だからって他のクラスに来ることないでしょ!もう、バカ!」
「だぁってアリスちゃんとちょっとでも一緒にいたかったんだよー・・・!」
「そんなこと言ったって、アリスちゃん、放課後はほとんど教室にはいなかったじゃない」
「あっ!合唱部の練習だよね?当日、絶対見に行くからね!」
「来なくていいわよ!」

パカンと、グーでおでこを殴られた。(・・・ああ、いつだって痛いアリスちゃんの愛!)そうして俺の手にしていた資料を取って、早く戻りなさいよと言う。

「でも、まだ貼ってる途中だから、中途半端なとこだけやってから行くよ」
「いいってゆってるの!・・・・アリスちゃん、わかってるんだから」
「え?」

聞き返すとアリスちゃんはぷいとそっぽ向いた。それから、小さな声で、

「・・・アリスちゃんが合唱部に行ってばかりで、クラスの人たちがよくない噂してるの、知ってるんだから。知ってて行ってるんだから。・・・あんたがフォローする必要なんて、ないんだから」

ぼそぼそと言うようすが可愛くて、俺はついくすくすと笑ってしまった。アリスちゃんが眉をつり上げる。

「っなに笑ってんのよ3Kのくせにっ!」

ぐいぐいと、両手でほっぺたをつねられる。痛い、けど、嬉しさににやける頬にはなんだか心地よかった。

しばらくして、離れたアリスちゃんの手を取って言う。

「アリスちゃん、俺だってべつに、アリスちゃんのフォローに来てるんじゃないんだからね、アリスちゃんと一緒にいたいから、来てるんだよ」

笑いかけると、アリスちゃんはしばらく黙っていた。それから、ふんと目をそらして俺の手をつねった。

「いっ・・!たたたたた・・・!ちょ、アリ、スちゃ、いた、いって・・・!」
「ふん!軽々しくアリスちゃんの手を触った罰よ!ほら、さっさと残り貼って、さっさと帰りなさいよね!」


アリスちゃんのクラス手伝ったせいで、あんたが自分のクラスで外されたりしたら承知しないんだから、と、蚊の鳴くような声が聞こえたのは、なかったことにする。