青春☆の買出し












「あ」

びっくりした、ほんとにいたから。俺が驚きに声を上げると、クラスメイトは心外そうに眉根を寄せた。

「なァによその意外そうな声!俺さま、アーヴィングが待ってろってゆったから真面目に待ってたんだけど?」
「あ、ごめんごめん、そうだよな、・・・じゃ、行くか」

靴箱からスニーカーを出して履き替えると、ワイルダーは素直についてきた。予想外のことに驚きながら、ちら、と横目で見ると、あーダメダメ俺さまのうるわしーお顔は世の全てのハニーのものだからヤローに見せるのはもったいないのハイハイあっち向いてと怒られた。俺はよくそんなに口が回るもんだなとぼんやり思った。



おしゃべりで軟派でいつも女子に囲まれている。それがゼロス・ワイルダーだった。三年で初めて同じクラスになったけど、俺はふつうに男子とつるんでいたし、ワイルダーはそんな調子だし、ほとんど話をしたこともなかった。

あんまりまじめではないだろうから、今日もクラスの買出しを頼んだところで、どうせ先帰るだろうと思っていた。待っていたのは本当に予想外のことだった。

それが、意外にもせっせとそこらから資材だの色紙だのを持ってきて勝手にカゴにつっこんでいくのだからびっくりだ。

あっという間にふたつのカゴは埋まってしまった。レジで領収書をもらうのを忘れずに、学校の近所のホームセンターを後にする。

仲よく並んで両手にいっぱいの袋を抱えて、後ろから来る自転車に気をつけながら、道路側のワイルダーに話しかける。

「今日、ありがとな、手伝ってくれて」

返事はなかった。晩夏の蝉が遠く鳴いていた。未だ残る暑さに何度か汗を拭いながら歩いていると、ぽつりとワイルダーが言う。

「重いな、」

突然で、最初なにを言われたのかわからなかった。その顔と袋とを見比べて、ようやく、ああとうなずく。

「でも買出しってだいたいこんなもんじゃねえ?」
「あー、そうなんだ」

そうなんだ、って、

「他人事みたいだな、去年も一昨年も文化祭、やったじゃんか」
「俺、なにもしてねえもん」
「・・・え?」

大きなトラックが横を通り抜けた。曲がるときにブーとクラクションを鳴らすのに、ワイルダーの言葉は危うく聞こえないところだった。

「んと、なんて言った?いま」
「・・・・なんでもねえ」
「だって、何にもしてないって、さっき、」
「っ聞いてんじゃねえか!」
「いやだから一応確認に、」
「っあーもう、お、まえっ、は・・・!」

がっくり肩を落として、それから俺をにらむワイルダー。なんでだと首を傾げると、右手に持っていた袋で乱暴に殴られた。上体がかしぐ、持っていた袋が落ちそうになって、やめろよと慌てて言った。ワイルダーはふてくされる。

「聞こえてねえみたいだからそーゆーことにしとこうと思ったのに、よ」
「で、なんで参加しなかったんだ?」

聞けば、もごもごと口ごもる。俺が待っていると、諦めたように言った。

「だって、だれも、手伝えとか、残れとか、言わねえし、よ」
「・・・・・あ、」

そうかと合点がいった。いつも女子に囲まれてるワイルダー、そりゃ、積極的に手伝えと言うやつはいなかったんだろう。(そういえば俺も昼休みに頼んだとき、女子を振り切るの、けっこう大変だったっけ、)

見上げると、ワイルダーはぷいと向こうを向いていた。学校の正門が視界の端に映る。

「・・・べつに、感謝とかはしてねえからな」

小さな声だった。けれど、たしかに聞こえた。俺はおもわず笑った。振り返ったワイルダーがキッとにらむ、そうして、一歩大きく踏み出して諸手を上げて、それから叫ぶ。

「がっこーまで、きょーそー、だから、なっ!」
「っえ?え、えっ!?」

走り出す背中を、あわてて追いかける。(一歩の差は、ひきょ、う、だっ!)

まだまだ暑い紫外線の下、必死で走って走って走って走る、なんだかすげーバカみたい、だけど、俺は笑った、あいつも笑った、




ナツイロ輝く空のした、はずむ、はずむ、ちからいっぱい!