わくわくの前夜








「あっ、ち!!」

ほっぺた押さえて飛び上がったワイルダーにわらうとほっぺたをつねられた。その指の温度にこんどは俺が飛び上がる。

「う、わ!ちべたい、」
「・・・・そーりゃあ、この寒い中待ってましたから?」
「ごめんって、美術倉庫のカギ返しに行ったら先生だれもいなくてさあ、」
「ちっ、ココア1本でゆるしてやるこころの広い俺さまに感謝しなさいよ」

俺の手から缶を受け取ると、ワイルダーはふるりと身震いした。それからプルタブを押してひとくちのむ。十一月の夜遅ければさすがに冷えて、吐く息はかすかにもやがかっていた。そうして、ふりかえってふと微笑む。

「帰るか、」




帰りみち、正門にはすでにでかでかと看板が掲げられていた。見上げて、空は暗いのにこころが弾む。

「いよいよ明日、だな」
「・・・そうだな」
「なんっかあっというまだったなー、準備、大変だったけどたのしかったし!」

な!とわらいかけるとワイルダーは苦笑した。

「まったく、いい迷惑だったっつの。毎日毎日居残り、ペンキ、居残り、絵の具。セーターは汚れちゃうし、」
「ふーん。・・・・ところで、さんざん言っといて顔がうれしそうなの、なんで?」
「っ!べ、つに、うれしくなんか、ねーよ!おま、目ェわるいんでないの!明日は休んで眼科でも行ってくれば!」
「はいはい」
「っ流すな!」
「はいはい」
「・・・・・もーいい」

最初はわからなかったけど、準備をしていくうちに、憎まれ口は照れ隠しなのだと気づいた。今では軽い言い合いも楽しくて、いつのまにか文化祭の準備以外のときもつるんでいる。


学園祭が、あってよかったとおもう。

去年も一昨年もそりゃ、たのしかったから同じように感じたけど、今年は特別だった。

ワイルダーといっしょに、準備した。新しい悪友ができた。―――ほんとにほんとうに、たのしかった、


明日で終わりなのだとおもうと、ちょっと寂しいけれど、同時にすごくすごくわくわくする。(ああ今日ちゃんとねむれるかな)








(文化祭、早く来い、そんでもって、ずっと終わるな!)