かなしみの教師格差







「納得いかん」
「まったくだ」

悲しき哉、大学時代を含め十数年の付き合いで培われたコンビネーションは本人たちの意思とは無関係に完璧であった。

職員室前、廊下。心底嫌そうに互いを見つめ合う教師が二人。顔をそらすタイミングでさえ同時だった。ため息をつくのももう一度睨むのも、そして考えていることでさえも。(ああ忌々しい、なんで朝っぱらからこいつなんかと、)

片方、国語教師のユアンがじろりとかたわらの男をにらんだ。

「ところでさっきから思っていたが貴様その手はなんだ」
「む。・・ああ、準備中の女子生徒にもらったのだ」

両手で抱えられた、お菓子やらマスコットやら、雑多なプレゼントの山。日ごろはその厳しさに阻まれてなかなか話し掛けられない女子もその時のノリでぽんぽんと物を渡せる日こそ、学校唯一の無礼講、文化祭だった。

「私ひとりでは処理しきれなくてな。よかったらお前も食うか」
「いらん!(そもそも私もさっき一通り見てまわったというのにこの差はなんだ!教師差別断固反対!)」

とにかくさっさと見回りを終えてしまおうと、ユアンは振り返った。

「ほら行くぞクラトス、」
「ああ、・・・っ、と、」

踏み出した拍子に、山のてっぺん、小さな人形がぽとりと落ちた。腰をかがめて拾い上げ、クラトスはユアンを見上げた。

「すまん、半分持ってくれないか」
「っ・・!誰が持つかさっさと歩け!!」

そう言ったけれど、クラトスが歩くたびなにかしらを落とすので、けっきょくはユアンがぎりぎり唇を噛み締めながら半分手伝った。



「最初は一年生からだったな、」
「うむ」

生徒で湧く廊下を、教師ふたりで歩くというのはなかなか大変なことだった。そこここで(主にクラトスが)声をかけられ袖を引っ張られ、新校舎を通り過ぎるころにはクラトスの山はさらにうずたかくなっていた。人の空いた渡り廊下で、ユアンはだまって増えた山の半分を受け取った。

「・・・このままじゃ旧校舎を制覇するころには前が見えなくなるな」
「ふん、誰のせいだか」
「そう言うおまえだって生徒からなにかもらっていたではないか」
「言っておくが私は食べかけの焼き鳥をふざけた男子から差し出されただけだぞ」
「・・・・・・一度職員室にもどるか、」
「(なぐりたいああなぐりたいなぐりたい・・・!)」

旧校舎一階の職員室まで、だんだんと標高を上げる山を抱えてあるく。と、階段を降りる途中でユアンは見慣れた顔をみつけた。(大きな声では言えないが、)自分の恋人の弟、声をかけようとして、クラトスに向かってきた女子生徒にはばまれる。彼女たちの去るころにはもう彼の姿はなかった。

(・・・・・ミトス?どうも元気のないようだったが、)

「なにをぼさっとしている、行くぞユアン」
「っ!(き さ ま !本当、に、なぐる、ぞ・・・!)」

すぐいくと返事をして、もう一度振り返る。少年の姿はやはりなかった。