疾風の少年








「あら?このあいだのガキんちょじゃないのよ」

なにこいつやなかんじ、とおもった。

背の高さを誇示するように(決して被害妄想とコンプレックスによるものじゃない)見下す視線、だらしないカッコ、さいてい。(こんなのがロイドの友だち?)

視線にそんなきもちが表れていたらしい、男は苦笑した。

「生意気そーな顔。ロイドの前では猫かぶってんだ?」
「うるさいな!アンタには関係ないだろ」

言いつけて横を通り過ぎようとした。けれど腕を、正確にいえば腕で抱えたものをつかまれて、立ち止まる。キッと見上げれば、眉がハの字に下ろされた。

「なに?僕忙しいんだけど」
「噛み付くなよ。・・・重いだろ、よこせ」
「・・・・・え?」

予想外のことばにきょとんとしていると、抱えていたベニヤ板をニ枚、大きな手が持った。そのまま階段を降りようとする背中を慌てて呼んだ。

「っねえ、まってよ、あんた、なんで、」
「べつに生意気なガキを手伝ってやってるわけじゃねえよ、ここで見捨てたら俺がアーヴィングに怒られちまうから」
「・・・っ!」

軽々と、男はベニヤ板を運ぶ。僕は急いで後を追った。(なんなんだあいつ、いったい、)


「1Aまで運べばいいんだな?」
「そう」
「・・・・ところで、なんでまた当日になってこんなもんを?準備、終わってねえわけ?」
「ちがうよ、迷路に来たコレットが・・三年の先輩が、まちがってベニヤに穴を開けちゃって、」
「そりゃまた災難で。つうかこれ、ひとりに任せる量じゃねえだろ、このあいだのガキは一緒じゃなかったのかよ?」
「っ!あんたには、関係ない!」

ふと、男は踊り場で足を止めた。つられて僕が見上げると、碧眼が見下ろしていた。なにをと問う前に、ぽんと、片手が頭に置かれた。背をかがめて男は顔をのぞきこんだ。

「おまえさ、何があったか知んねえけど、んな必死な顔するぐらい大事なやつならちゃんと大切にしとけよ。次は俺さまも手伝ってやれねえぜ?」

ふ、と、一瞬の沈黙の後、大きな手は離れた。


ろくに喋ったこともない、よくわかんないやつに、なんでそんなことを、というきもちはあった。

でも、図星だった。

ミトスを突き飛ばしてしまった日から、僕はミトスを避けていた。否、話しかけることができなかったのだ、申し訳なさだとか、みっともなさだとか、プライドだとか、いろんなものが邪魔をして、あやまるどころか声をかけることさえできないまま、文化祭がやってきてしまったのだ。(・・・・本当は、ミトスと、プレセアといっしょに、まわりたかった、のに)

ぎゅうと、ベニヤを強く握る。(ぼくは、ばかだ、)それから上履きに力をこめた。(はやく、いかなきゃ、)腕を上げ、左足を持ち上げる。(いますぐ、あやまらなきゃ、)わき目もふらず、駆け出した。(はしれ、かぜよりはやく、)


あやまってそれからいっしょにまわるのをさそって、それで、








(いっしょに、わらってあるくんだ!)