※暗くてかなり痛い話です、苦手な方はご注意下さい











潮騒の音が聞こえる。


血の匂いに麻痺した鼻が微かに海風を捉えた。身じろぎするとギシと重い音がした。目線を下ろす。手を、足を、身体を拘束する太い縄。すぐ後ろの大きな柱に繋がれている。外そうと何度ももがいたせいで身体中が痣だらけだった。


ロイドくんによってここに監禁されて、どれくらい経つだろうか。ここに来てから眠ることが多くなったから、よく覚えてはいない。一週間かもしれないし、一年かもしれなかった。


この小さな小屋にはいつも血と塩の匂いが充満していた。海の近くにあるらしいこの場所に来るとき、ロイドくんはいつもどこかしらに怪我をしていたから。




ロイドくんはどこかがすこしおかしいのかもしれない。腹が空いたころにやってきて、食事を置いて、それから俺の身体をタオルで丁寧に清めて、愛おしそうにキスをして、俺をじっとみて、帰っていく。それをずっと、ずうっと繰り返している。


けれどその異常性にも最早慣れてしまった。俺はただ息をするのだけが仕事のように、この狭い小屋でロイドくんに飼育されている。





キィィ、古いドアが開く。誰が入ってきたのだろうなどともう思わない。ロイドくん以外の人間はしばらく見てない。


ゆっくりと顔を上げると暗い目がこっちを見ていた。いつものように白い食器を持って、俺のところまで歩いてくる。右頬が血にまみれていたから、ぽたり、ぽたり、木の床に染みを作る。といっても床はほとんど血だらけだったから大して目立たなかったけれど。


カチャリ、食器を床に置くと、ロイドくんがいつものように一切れのパンを俺の口に運んだ。俺はなんだかもう口を開けることすら億劫で、そっと瞳をとじた。ため息をつく気配があった。


「ゼロス、」


返事はしない。そういえばずいぶん声も出していないような気がした。乾いた喉がひりつく。


「ゼロス、食べて」


目を開けて驚いた。ロイドくんは心配そうな表情をしていたのだ。ロイドくんのこんな顔を見るのはいつぶりだろう。俺が黙っていると、ロイドくんはてきとうにパンを置いて、俺の頬に触れた。柔らかい指先に戦慄した。優しかったロイドくんの面影が脳裏をよぎった。俺の大好きなロイドくんの顔。


頬が熱い。気がつけば涙を零していた。こんなに人間みたいなことをするのは久しぶりだった。ロイドくんの指がそれをつ、となぞって消した。


「・・・・ろいど、くん」
「なに、ゼロス」
「・・おれ、いつになったらここからでられるのかな、」


間近の瞳は揺らいだ。波の音が聞こえてから、ロイドくんが言う。


「ゼロスは、ここから出してはやれないよ」
「・・・なん、で?」


答えはない。俺はすこしだけロイドくんが憐れになった。もしかしたらロイドくんは俺をここに繋いでおかないと安心できないのかもしれないと思った。


「ねえ、ロイドくん」
「なんだよ、」
「おれ、ロイドくんのこと、すごく、すきだったんだよ」
「・・・知ってる」
「ロイドくんがいればなんにもいらない、それぐらい、すきだ。だから、縄、ほどいてくれないか」


迷っているみたいだった。何を迷う必要があるのだろうと俺は不思議に思った。


しばらくしてロイドくんは俺の首の縄に手を掛けた。しゅるしゅるとそれを解いていった。慣れていた若干の息苦しさから解放されて俺は叫びだしたいような気分になった。


腕、足、腰、と、拘束が剥がれていく。すべて外されて俺はすぐにロイドくんに飛びついた。久しぶりに抱き締める身体。俺が抱きつくとこてんと床に押し倒された。細い細いと思っていたのにそうじゃなかった。ああ俺が細くなっていたのかと気がついた。


懐かしい匂いがした。愛おしい気持ちで胸がいっぱいになって、あちこちにキスをした。ロイドくんはくすぐったそうにすこしだけ笑った。


その笑顔を見て俺は心配になった。ロイドくんを抱き締める腕に力がこもる。




こんな顔をしていたら、他の誰かに取られてしまう。




こんな無防備な顔で、こんな嬉しそうな顔で、―――駄目だ、ロイドくんはきっと他のやつに取られてしまうに違いない。クラトスを殺しただけじゃ足りない。リーガルも、ガキも、コレットちゃんもリフィル先生も、みんな、みんな消さないといけない。


どうしよう俺はそんなにたくさん殺せるだろうか。不安になってロイドくんの肩に顔をうずめた。そうして思いついた。


ロイドくんを殺せばいい。そうしたら取られる心配をしなくていいから。




ああ俺さまってなんて天才












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ロイドが狂っているように見せかけて実はゼロスが狂っている話
ゼロスはロイドが好きだからクラトスを刺してしまってロイドに拘束されてました
ロイドがいつも傷ついているのは無意識のゼロスに噛み付かれているから