※注意。クラトスルートです








追憶の微笑








「俺たちが生きている今日は、あいつが生きたかった明日なんだよ」


そう言ってロイドは花束を放った。懐かしい剣の下。


潮騒の音が聞こえる。やわらかい風が私の金髪を攫った。


海を一望できるこの丘は、昔、救いの塔があった場所のすぐ近く。塔から脱出した私たちが、一夜を明かした丘。かつて、ロイドが泣いて過ごしたところ。いなくなったもうひとりの神子を偲んで。


あのとき、黙っていたけれど、ジーニアスも、先生も、私も、みんな、みんな、わかっていた。―――ロイドが、心から彼を愛していたこと。


よみがえる鮮やかな記憶に、目の前の背中が霞む。




あのときからずっと、ロイドに隠していることがある。(あの夜、先に毛布に包まって震えていたロイドには、とてもじゃないけど言えなかった)


その深紅の髪のように鮮血に覆われた彼を、泣きながら抱きしめていたロイドには見えなかっただろうけれど、彼は、ゼロスは―――微笑んで、いた。


息すら止まりそうなほど、美しい微笑。皮肉なことだけど、天使とはこういうものなのだと思った。・・・・今でも目の奥に焼きついて、私を縛り付ける。



ロイドの腕に抱かれ、幸せそうに笑みを浮かべるゼロス。


あのときはわからなかった、どうして彼が微笑んだかなんて。


けれど、今。


ロイドの背中を、みつめながら。


今、気づいてしまった。









あなたは、もう疲れてしまったんだね


ロイドに抱かれて、すべて終わりにしたかったんだね





つうと、温かい水滴が頬を伝う。海風が冷たい。








ふたりは、どこですれちがってしまったんだろうね











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