としかへりて、春になりぬる
「あれ、もう紅白はじまってる、」
寝ぼけ頭、ぼんやりとつけた画面のむこうでは派手な衣装の司会がわらっている。こんな時間まで寝てたのかとおもいながらふりかえれば、狭いシングルに昨日の温もりは残っていなかった。きょろきょろと探せば向こうのキッチンからトントンと、小気味のいい音がする。寝すぎて気だるい身体を起こしててきとうにズボンだけ履いて、頭ぐしゃぐしゃしながら足をひきずる。
ガスのしずかに騒ぐキッチン、フローリングをそろりと近づいて、シンプルなエプロンを巻いた腰にぎゅうと抱きつく。(あ、うちのシャンプー、・・・あたりまえか)三つ葉を刻む手はとまらない。
「ロイドくん、起きてたんなら起こしてよ、」
「だっておまえよく寝てたから。・・・・休み、久しぶりだろ?」
「そうだけどさあ、たまの休みだから恋人とべたべたしたいの俺は!」
「昨日散々べたべたしただろ、ほらシャワー浴びてこいよ」
「えー、ロイドくんつめたーい」
しばらくぎゅうぎゅうとごねてみたけれど恋人は料理に没頭していて振り向いてもくれない。しょうがないからぶうぶう文句を言って、とぼとぼ廊下に出て行った。
髪をごしごししながら戻るとほんわり、おいしい匂い。リビング、ベッドに座ってテレビを見ていたロイドくんがふりむいてため息をつく。
「ちゃんと乾かせっていつも言ってるだろ、風邪ひくぞ」
「うっせえなあもーちょっとしたら乾かすもん」
「毎回そーゆって、一度もやったためしがないだろうが、しょうがねえなあもう」
ロイドくんは立ち上がる。ちょっと待ってろ、それだけ言ってスタスタ廊下に。かえってきたロイドくんの手には久々に拝んだドライヤー。(ああまだあったのか)俺の手を引くとリビングの床にぐいと座らせた。カチリ、コンセント。かるく押さえられた頭、ブワアと騒音と熱風。くしゃくしゃ、器用な手が髪を撫ぜる。
「・・・・・なんか、お子様みたい」
「みたいじゃなくって、お子様、だろ」
「むううロイドくんの方が背ェひくいくせにー」
「・・・髪燃やすぞ」
「すみませんごめんなさい存分に乾かしちゃってください」
コトリ、出された椀にはシンプルな蕎麦。どうやらさっき熱心にお作り遊ばされていたのは年越しそばだったらしい。空きっ腹がぐうと鳴く。向かいによっこらせと座ったロイドくんがみかんと蕎麦の載った机をみていう。
「あー、こたつ、実家から持ってくりゃよかったな」
「え、あんの?」
「うん、使ってない古いやつがあってさ」
「じゃー今度持ってきてよ、俺おこたでいちゃつくの夢だったんだよねえ」
「あごめん俺の思い違いだった使わないから何年か前に捨てたわ」
「なんだよそれひでえなあ」
わらいながら割り箸をパキリ。冷ましながら一口すすれば柚子が効いてうまかった。ふと、思い当たってサイドボードをみる。デジタル時計、
「あ、」
「うん?」
「カウントダウンわすれた、まあいいやおめでとう」
「あーうんおめでとう七味とって」
言われたとおりに渡してやると、ロイドくんはさみいなあと言いながら蕎麦を食べている。ちょっと不満で、のぞきこんだ。
「・・・・今年もよろしくとか、ないの?」
「え?なにいってんだよ、」
「(いやだってほら一言くらいあってもいいじゃないのよ)」
もんもんと、ぐるぐると、考えていれば、つゆまで飲み干したロイドくんがはぁと顔を上げてぽつりと言った。
「今年も来年もそのつぎもどうせいっしょだろ、毎年いうのめんどくさいじゃん」
「え、・・・えええなにそれ、・・・・・・まいっか、うん、そだね。あそうだロイドくん、」
「んー?」
「おとしだま」
そう言って、身を乗り出して机に手を付いてキスするとロイドくんはちょっとだけびっくりした顔をして、それから上目ににらんだ。
「・・・・不意打ちは、ずるいだろ」
「あ、照れた?」
「べっつに!」
「そっか照れたのかロイドくんはいつまで経ってもかーあいいなー」
「んなこと言ってると雑煮つくってやんねえぞ」
「ううなんていう絶対王政!」
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二〇〇九年元旦 328 (nano)