(※ロイ←コレ前提。コレットちゃんが非常に病んでいます)












狂気、




 愛という名の



















ちくり、

痛みのような、蚊に刺されたような、そんな、感覚。ふと顔を上げて窓の外を見たけれど、そこには誰もいなかった。

「・・ぁ・・・ゼロ、ス・・?」

ほったらかしにされたロイドくんが首を傾げる。(・・・そのえろい顔、他の男に見せたらだめだからね)肌蹴た服を直してやると、ロイドくんは不満そうに足を絡ませた。

「だァめ。ほら早く行かねえと露天風呂しまっちまうぞ、フラノールの雪見風呂がいいって言ったのはロイドくんでしょ、」
「ぅんん、も、いい。久々に会ったんだからさ、・・・・な?」
「ちょっとくらい我慢しろよ、ほら行くぞ」

やだやだとシーツにしがみついてごねる身体を抱えて持って行こうとすると、ロイドくんはようやく諦めてもそもそと風呂の支度を始めたりする。

本当は、仕事のためにしばらく恋人に会えなかった俺としては願ってもない申し出で、お誘いに乗っても全然かまわなかったんだけど、でも、なんとなく気になったから、やめた。

部屋を出る前、もう一度振り返る。キラリと、なにか光るものが、見えたような気がした。


(・・・・・・薄気味悪ィ)










はしゃぎすぎて上せたロイドくんを支えながら部屋まで戻ってくる。ベッドに寝かせるとううと呻いたままうんともすんとも言わなくなった。

このままそばで見ていようかとも思ったがやはり気がかりで、赤い耳にそっと、少し出てくると言い置きして外套を取って、そっとドアを閉めた。



ホテルを出ると、さすがに寒さが染みた。こんな夜中に馬鹿なことをと自分でもわかっていたが、なんとなく、気配がしたように思えたから。(・・・・まさか、な)

街に出たはいいが、どこという当てがあったわけではない。

ただ、なんとなく気が向いた方に歩いていると、ついつい教会の前に来てしまった。あの夜、救いの塔に行く前夜は、ロイドと一緒にここにいたっけと思いながら、手すりによりかかる。

白銀の街を見下ろしていると、不意に、視線を感じた。目線で振り返ると、―――――ああ、やっぱり、(きっと、さっきの視線も、)

「・・・・コレットちゃん」
「ゼロス、久しぶりだね」

薄く笑いながら少女は近づいてくる。白い服には目立たないけれど、その肩には、僅かに雪が積もっていた。となりに立つと、コレットちゃんはくるりと反転して、手すりにもたれた。そうして俺を見上げて言う。

「ここから見えるフラノールの景色、とってもすき」

曖昧にうなずくと、コレットちゃんは鈴のように笑う。

「でもわたしね、この街、大嫌いなの」
「え」
「だって、だってね、」

―――ロイドここで、ゼロスに告白したでしょう?


続けられた言葉に、息が止まるかと思った。俺の目を見つめてうっすら微笑んだまま、コレットちゃんは背後の手すりをそっとつかむ。ミシリと、硬い音が聞こえたような気がした。



コレットちゃんは、知っていた。

おそらくあの夜も、ここで、この場所でロイドが言ったことを聞いていたのだろう。そしてそのあと、俺がそれにうなずいたのも見たのだろう。道行く人に気づかれないように、外套の下で密かに手を繋いでいたことも、気づいていたにちがいない。

俺は空恐ろしくなった。

目の前にいる少女が、なんだか、まったく知らない人間のように思えてきた。共に旅をしていた頃より多少大人びた少女は、いつの間にこんな変貌を遂げてしまったのか。


さむいね、と、少女は言った。そうっと手を伸ばして、俺の外套に触れる。そうして、ぐいと、乱暴な手つきでそれを剥ぎ取った。

「これ、貸してね?」

お願いではなく決定だった。脱がすときに夜着の間の肌に触れた指は、気が遠くなるほどに冷たかった。

緩慢な動作でそれを羽織って、長い髪を払う。ふわりと、花のようにいい匂いがした。夜着一枚になったからとか、そういう理由のせいではなく、身が凍るような思いがした。ぶるりと俺が震えると、それを見咎めたコレットちゃんは笑顔のまま、

「あ、ごめん。寒い?」

と、無邪気に聞く。首をゆっくり横に振ると、そう、と言ったきりコレットちゃんは黙ってしまった。


ここで何をしていたのかとか、どうしてあのときここにいたのかとか、聞きたいことはいくらでもあった。けれど、聞けなかった。それどころか、微塵も動くことができない。緊張のあまり喉がひりついたのがわかった。

そのとき、ひときわ強い風が吹いた。俺が反射的にくしゃみをすると、コレットちゃんは、ゆっくりと俺を見た。

「さむいよね?」
「・・・ああ、」
「ふふ、そうだよね。寒いよね。・・・・・でもね、ゼロス」
「・・・・・・コレット、ちゃん?」

言葉を区切ったコレットちゃんはやっと笑顔を止めて、そして俺を凝視する。切り刻まれそうな視線に、やはりさっきの気配はこの少女だったのだと気がつく。けれど、何も言えない。コレットちゃんの唇が持ち上がる。

「あの日、わたしね、とてもとてもさむかった」
「あ、の、」
「ゼロスは気づかなかったでしょう?私が、教会の陰から見ていたこと」
「コレットちゃ、」
「ずっとみてたの、頭に雪が積もってるのに気づくまで、ずっとよ」
「・・・・コレットちゃん」
「ロイドがゼロスに告白するところも、ゼロスが嬉しそうに嬉しそうにうなずくところも、ぜんぶ、みてた。さむかったな、ずっと、ひとりで。とても、さむかった。息まで凍るかとおもったよ、」

とても、目を見てはいられなかった。いたたまれなくてそらすと、瞬間、恐ろしいまでの力で顎をつかまれた。ずいと近づいて、コレットちゃんは首を傾げる。顔にはさっきまでの笑顔が貼りついていた。背筋がぞっとした。

「どうして?」
「え、」
「どうしてゼロスはうなずいたの?」
「どう、してって・・」
「ロイドは、ロイドはね、わたしをずっと守るって、約束してくれたよ?」

答えは見つからなかった。何を口にしても、つかまれた顎を捻り潰されてしまいそうだった。

「ロイドは、きっといま、ゼロスとの間でちょっと迷ってるだけだよ。いつかはわたしのところに帰ってくる。わたしと一緒に暮らすの。わたし、きっとすごくすごく仕合せになれる。でもね、」

見開いた目は、慈愛と優しさと狂気に満ち満ちていた。俺は最早、震えるのを堪えられなかった。

「そのとき、ゼロスは要らない。必要ないの、わたしとロイドの間に、あなたは必要ない」

切り刻むような、抉るような、言葉。夜着一枚の俺には、冷たすぎた。肌を刺す風なんかより、もっともっと、冷たい、言葉。コレットちゃんの細い手は俺の首に伸びた。撫でるようだった手つきは一変する。ぐいと、血管が浮き出るほどに強い力で、俺の首は掴まれた。息が止まる。

「だいたい、ロイドを裏切ろうとしたのに、ゼロスはどうしてロイドの隣にいるの?おかしいよね、へんだよね」
「・・っ・・コレッ・・ちゃん、(くび、が、くるし・・・い、)」
「どうしてわたしのロイドの隣にいるの、どうしてわたしじゃないの、―――どうして、わたしじゃないの?」
「・・・ぅ・・あ・・・・ロ、イ・・・ド・・・・・・」

薄まる意識にもう駄目だと思った瞬間、力が急激に弱まった。げほげほと、苦しい音が遠くで聞こえた。ばくばくと脈打つ心臓がうるさかった。ほとんどコレットちゃんの手の力で立っていた俺は、支えを失って倒れこむ。触れた足元の雪は、さっきまで俺を掴んでいた手よりよほどあたたかかった。

どうしてと顔を上げると、そこにはさっきまでの少女はいなかった。

やわらかな微笑み、やさしげな佇まい、小さく振った、折れそうに細い、手。なぜと目線を追えば、理由はこっちに向かって走ってくるところだった。

「ゼロス!起きたらいないから心配したぞ!」

真っ白い息を吐きながら走ってきたロイドくんは、俺たちのもとに来ると、羽織っていた分厚い上掛けを俺の肩に載せた。あたたかい指先に、涙が出そうになった。ロイドくんはコレットちゃんを見ておどろく。

「なんだ、偶然だな。コレットも来てたのか、」
「うん!まさかロイドに会うなんて思わなかったよ〜」

明るい少女からは、とても先刻の表情など想像できない。俺は本能的に恐怖した。俺の震えたのを見てロイドくんが、

「ゼロス、コレットに上着貸してやったのか?ったくやせ我慢して、ばかだな。寒かっただろ?」
「あ・・・うん、」
「もー、しょうがねえなあ、帰ったらコーヒー入れてやるから、俺にすっごく感謝しろよ!」

な!と笑いかけてくれるロイドくんはあたたかくて、とてもあたたかくて、俺はただただうなずいた。差し出してくれた手は、眩暈がするほどやさしかった。

俺たちどこのホテルに泊まってるから、時間があったら来いよと言うロイドくんの声が遠くで聞こえる。嬉しそうに同意するコレットちゃんの声はもっと、遠く。

気がつくと俺たちとコレットちゃんは別れる算段になっていたらしい。行くぞとロイドくんに手を引かれて、俺はやっと気がついて足を動かせた。

すこし歩いたところで、ありがとうと、小声でロイドくんに言った。ロイドくんはなんだよと不思議そうな顔をした。

それでもなにかを察したのか、繋いだ手をぎゅっと握ってくれた。


俺は震える声でまた、ありがとうと言った。








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ヤンデレというものが最近までよくわからなかった(というか今でもよくわからない
ヤンキーかヤンバルクイナしか出てこなかった。「病ん」だとは思わなかった
というわけでとりあえずヤンデレコレットちゃんの試作品でした

あとなんかこの話の設定を日記に書いたら反響が大きくてびっくりした