※学パロです。それでもいい人だけスクロールスクロール!
「あいはふとぅー、ぺい・・いんだみてぃ・・ん?いんでぃみにてぃ・・?」
ぷ、と噴き出すのが聞こえた。教科書まるめてひっぱたく。あいたたと大げさによろける真似をして、ゼロスは笑いながらずれた眼鏡をすいと直した。
「だってしょうがねえじゃん、ロイドくんそれはねもう発音がどうとかそういう前の問題だよ。(どう聞いてもひらがなにしか聞こえないとか!)」
「っるせえな!英語なんていざとなったら書けばいーんだ書けば!(伝えたい気持ちがあれば伝わるって俺、信じてる!)」
「バァカ、書くもんも書けねえから追試なんか喰らうんでしょうが、(なに勝ち誇った顔してんのかわいーなもー)」
「う、だ、だって小テストあんの忘れてゼロスが香水見に行きたいとかゆうから!そのせいで留年の危機なんだからなっ!(っさい、かわいいとかいうな!)」
はいはいだからこうして遅くまで一緒に残ってあげてるんでしょ、ほらさっさと解きなさいよと言われるともう文句を言う気力もなくなってしまった。しようがないからと重い右手を上げるけれど、目の前のプリントは強敵だった。(い、いちもんもとけねえとか、まじ、しゃれになんねえ・・・・!)
「・・・・ゼロスどうしよ、」
「あん?」
「俺、来年からおまえのことゼロス先輩って呼ぶことになりそう・・・・」
ああいいねそれもえるねと気軽に言うゼロス先輩の足をこれでもかというくらい勢いよく蹴ってやる。ものすごくなにか言いたそうな目でみていたが特に気にしない。
テストの前の日に誘ったのを多少は気にしていたらしく、ゼロスは俺がひとことわからないと言えば、すぐにヒントをくれた。すぐに教えるわけでなくて、印象づけて明日の追試で思い出しやすいように、ちょっとずつ、くだらない話なんか織り交ぜながら。俺には制限用法も非制限用法もさっぱりだったけれど、ゼロスのおかげで、和訳のコツはなんとかわかった。
サラサラリと、ゼロスの唇は外国の言葉を紡ぐ。歌うように撫ぜるように、キレイな発音。リスニングのテストだって、こいつの声で喋ってくれたら俺、一単語だって聞き逃さないのになと、おもった。(・・・・あーでもほんと、キレーな声)
ぼんやり聞いていれば、ゼロスがわら半紙から顔を上げる。
「・・・聞いてた?」
「え、あ、おう、聞いてた聞いてた!」
「じゃあほら、最後の長文とこ、」
「ああ」
返事して、ひととおり目も通したものの、できそうな問題はまあ当然ない。ゼロスはくるくるとipodをいじっていた。
ちらりとうかがうと、窓から吹き抜ける残暑と初秋がふわりと目の前の赤毛を掬った。(・・・・あ、いいにおい、)
この前の香水だろうかとみつめていると、ふと、窓の外を眺めていたゼロスが振り向く。目が合う。どきりとした。みつめていたのがばれたのかと思った。そうではなかった。ゼロスは視線をプリントに落として、
「ああなに、わかんないの?」
「あ・・・うん」
しょうがねえなあと言いながらゼロスの指がくるりと細いシャーペンを弄ぶ。文章を区切ったり、線を引いたりするその指が、夕陽の赤を差していてキレイだった。言葉なんて大して知らない俺にはキレイとしか言えなかった。そしてそれが一番この男に合っていると思った。
不意に、ゼロスが目線を上げる。目蓋は落としたままに、視線だけ向けられて、意味ありげなそれに、尋ねる。
「どうかしたか?」
「や、さっきからすげー見られてるから、なにかと」
「・・・っ!」
気づかれてたとわかるとなんだか急に気恥ずかしくなる。俺は慌てて席を立った。
「ち、ちょっと、飲み物買ってくる!!」
空きの机やら椅子やらに何度かぶつかりながら、あわあわと教室を出る。俺のメロンソーダも買ってきてくれてもいいんだからねーと、うしろで聞こえた。無視した。
てきとうにお茶を買って戻るとゼロスにプリントを渡された。なんだと見れば、長文の設問には答えが埋まっていた。答えだけでなく、丁寧な字で解説も。見上げるとゼロスは、もうすぐ下校時間だから、と言った。俺は短くサンキュとだけ言って、慌てて筆箱だの参考書だのを鞄にしまった。
いつものように、校門でゼロスとは別れる。なんだか今日はすこし口数の少なかったような気がした。
家に帰って部屋に戻って、よし勉強とプリントを取り出す。勉強机に着いてゼロスの解説に目を通していると、携帯が鳴った。
ひょいと身をかがめて、机のわきに放り投げた鞄から取り出す。メールだった。送信者欄のゼロスの名前を確認して、なんだろうと思いながら開けてみる。
『プリント、裏に問題書いといた。それだけ答えられりゃ明日の追試、楽勝だから』
なんだそれとおもって、ぺらり、わら半紙をひっくり返す。左上、癖のある字が並んでいた。
I love you ,
I love you ,
I love you ,
Honey,
And...And you?
シャーペンを持つ手が固まる。頭は必死で働いて、答えを探した。
・・・・ああもう、俺のバカ、なんでもっとまじめに英語勉強しとかなかったんだろ・・・・!正解なんてこれぐらいしか思いつかない、
Me too
(・・・・・・問題出したんだから、明日ちゃんと、答え合わせ、しろよ、な!)
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