※コレットちゃんが死んでます、ご注意









はらり、

頬を掠め積もる白雪を、ゼロスの長い指がそっとぬぐった。冷たかった皮膚がそこだけ熱を帯びて、俺は青白い息を吐いた。


「・・・サンキュ、」
「当然でしょ、ロイドくんに触っていいのは俺だけなんだから」


白銀の中、そう言って笑う男だけが色を持っていた。鮮烈、眩しいくらいのスカーレット。俺の色、俺だけがパレットに置ける色。白と赤の絢爛に俺は微笑んだ。



ゼロスだけは、俺を所有物のように言ってもよかった。好きなように触れていいし、どれだけ束縛の証を俺に残しても構わなかった。


同じように俺だけが、ゼロスを所有できた。その髪を撫ぜるのが、その逞しい腕に包まれるのが許されるのは俺だけだった。


世界でこの男と対になるのは、俺ひとりでよかった。






ぞくり、背を伝う寒さに震撼する。


ばらまかれる白い魔物、防寒のマントがはためいて侵略されそうになるのを、ゼロスが手を繋いで守った。


「しっかしさみィな、あとちょっとだけど、平気か?」
「ああ」


フラノールの外れにあるというゼロスの山荘に行くところだった。長旅が続いて、冬の間はそこで身を潜めようという話になって、寒空を歩いている。


時おり強い風が吹くのを、ゼロスはさりげなく俺の前を歩いて防いだ。この男の無言のやさしさが好きだった。




「着いたら、あったかいスープでも作ろうな」
「うん」
「あそうだ、昔コレットちゃんに教えてもらったレシピがあるんだ、カブとベーコンのスープ、」


久々に作ってみよっかな、と、気軽に言うゼロスに小さくうなずく。それは幼馴染の得意料理だった。冬が来るとよく家に遊びに行って作ってもらっていた。慣れ親しんだ味だ。


(・・・・でも、)


「こんなとこで食べられると思わなかったな」
「ん?ああ、そうだな。・・・ロイドが喜んでくれるのって言いながら教えてくれたんだぜ、コレットちゃん」


振り返ってゼロスは微笑む。あたたかい笑顔だった。背筋が笑う。


「・・・春が来たら、コレットに会いに行こうか」
「お、いいな。そういやしばらく会ってねえなぁ」
「ああ、なんだか最近忙しいらしくてさ」


変わらぬ声音で言ったけれど、本当は笑い出してしまいたかった。そんな俺を隠すように、空はいっそうに吹雪いた。








コレット


幼馴染で、いつだって俺と一緒にいた、シルヴァラントの神子―――ゼロスと対極の存在。


どんなときだって明るくて、穏やかに笑い、時たまころんではみんなを綻ばせていた、俺を慕っていた、少女。


俺だってコレットのことは好きだった。女性として見たことはなかったけれど幼馴染として大切にしていたし、世界再生の旅にも付き合った。でも、




神子だから、いけなかった




赦せなかった、到底赦しきれなかった、俺以外にあいつと対を成す人間がいるなんて耐えられなかった、あいつに連帯感ともいえる感情を含んだある種特別な目で見られるのが妬ましかった、だから、




だから、殺した




山歩きに誘って疲れたなと言って飲み物をわたしたら、あっけないほど容易に、少女は息を引き取った、やすらかに、眠るように。


刺したりはしなかった、激しい毒物を渡すこともしなかった、血は見たくなかった。(だって血なんて吐いてしまったらその身体がゼロスと同じ色に染まってしまうから)


遺体は木の下に埋めた。純白の桜の下、彼女はこの冬を越している。


春になったらきっと、それは美しい花が咲くだろう、ゼロスも喜ぶにちがいない。




結ばれた手をつよく握った。(この大きな掌も、俺だけのもの)


なにかと振り返ったのに微笑みかける。(その世界に、俺だけがいればいい)











白銀の世界、







スカーレットがはためいて














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もうすぐ冬ですね、ゼロロイの季節ですね。
自画自賛も甚だしいですが、この話は個人的に気に入っています。思い入れの深い作品です。
ロイドくんは素面で怖いことを言える子だとおもいます。

BGM:SNOW/DANCE (Dreams/come/true)
IMAGED BY:スターダスト (Sound/horizon)