久々の気だるさに、眉をしかめながら身体を起こす。

なんだかしばらくぶりによく眠れた気がするが、昨日の夜はなにがあったっけ、だれを抱いたんだっけ、ややぼんやりした頭で横を見ると目が合った。蘇る情事の記憶、抱きしめた温度、唇のやわらかさ。カァと頬に熱が走る。(セックスなんて、飽きるほどしてる、はずなのに!)

「あ、の、ロイ・・ド、怒って、る?」

返事はなかった。ただじっと対の瞳が俺をみつめていた。

「・・・・ロイド?ロイド、なあ、」
「昨日、」
「うん?」
「好きだって、言ったな?」
「っ・・・あれ、は、その・・・・えっと、・・・・・・・はい」

考え込んでいるようだった。ロイドは、もしかしたら俺の言葉が信じられないのかもしれない。俺は不安になって、信じてほしくて、必死で言葉を繋いだ。

「ごめん、な!俺ずっと、おまえに甘えてたけど、いなくなってわかったんだ、おまえがいないとだめなんだ、好きなんだ、やっと気づいたんだ。ロイドの作ってくれるご飯がどんなに美味しいか、俺がどんなにバカだったか、おまえがどんなに大切か、ようやくわかった」

ロイドは、まだぼんやりと俺をみていた。そして起き上がろうとして、顔をしかめて剥き出しの腰に手を回した。

「っ!昨日、は、いきなり襲っちゃって、ごめん、本当にごめん、お前が女の子と喋るの聞いてたら、我慢ができなくなっちまって、・・・・ごめん、怒るの、当然だよな」
「・・・ゼロス、」

掠れた声に跳びはねた。つづきを聞くのが、気になるような、おそろしいようなきもちで、待つ。再び口を開いたとき、突然の騒音。おどろいて発信源に目をやると、ロイドの携帯だった。ずきりと痛む胸、けれど罪悪感で手を伸ばす。動けないロイドに渡した。ロイドの指が通話ボタンを押した。

「・・はい、」

電波のむこうから聞こえたのは女性の声だった。昨日の彼女だろうとおもった。ああ、とかうん、とか、実のない返事がつづく。それから急に、ロイドははっきりと喋った。

「昨日は相談乗ってくれて、ありがとな。じつはあのあと、上手くいったから、」

なんの話だろう。あのあとってなんなんだ。考えているうちに電話は終わったらしい、ロイドはぽいと携帯を投げ出した。それから視線を上げて、ふ、と微笑む。間近で見た久々の笑顔にどきりとした。

「幼馴染なんだ、電話」
「あ・・うん」
「昨日、学校帰りにちょっと、相談、してさ」
「・・・・・そう、」
「好きな人がいるって言ったら、告白すればって言われたんだけど、俺がする前にされちゃって、こまったよ」
「え?」

ロイドの瞳が朝焼けにきらめく。呆然としていると腕を引かれて体勢を崩した。至近距離に俺は赤くなった。ロイドが笑う。

「なんだよ、さんざん女連れ込んでたくせに」
「・・っ・・・ロイドは、ちがうんだよ!他の女となんか比べらんねえの!」

やけっぱちで、叫ぶように言うと声を上げてロイドが笑う。それからやわらかく目を伏せて、

「もう、他のだれともこういうこと、しない?俺はおまえと一緒に暮らしてるあいだ、つらくてつらくてしかたなかったんだぞ?」
「・・・ごめん、絶対、しない。おまえが出てってから、だれともしてない。・・・・掃除も洗濯も、まかせっきりにしない。ちゃんと、手伝うから」
「ご飯、ちゃんと食べてくれるか?」
「ロイドが作ったのなら、なんでも」
「・・・・・他のやつの作ったのは、食うなよ」
「?うん、ロイドが嫌がるなら、食わねえよ」
「そっか、」

満足げにうなずいて、ロイドはぎゅうと抱きついてきた。やさしい体温にほっとする。またねむってしまいそうだ。けどそのまえに聞かないといけないことがある。

「ロイド、」
「ん?」
「へんじ、は?俺、好きだって言った、けど」

改めてたずねるとロイドはきょとんとして、それからふっと微笑んで、くちびるが寄せられた。

こころがはなひらくような、そんな、音がした。







end.






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