「え、」

目にした光景に息が止まるかと思った。かろうじて口から零れ出たつぶやきに、耳の良い少女はすぐに気がついた。ゆっくりとこっちを振り返ると、コレットちゃんは目を細めて微笑んだ。風呂上りの身体がしんと冷える心地がした。

「ごめんね急におじゃまして。ゼロス、まだ出てこないと思ったから」

平然とした態度に返す言葉が見つからない。俺が突っ立ったままでいると、コレットちゃんはベッドからひょいと身を起こした。眠るロイドが微かに身じろぎした。そうだ、ロイド、

「コレットちゃん、いま、ロイド、に、」
「キスしたよ?」

それがどうかしたのとなんでもない顔で聞く少女に頭がくらくらする。コレットちゃんがロイドを好きなのはもちろん知っていた。だけどあの天真爛漫な少女が、眠る男の部屋を訪ねてわざわざ寝込みを襲うような真似をするなど、到底想像したこともなかった。理解の範疇を超えた出来事に、俺は絶句した。

ベッドを降りたコレットちゃんは軽い足取りでこっちに近づいてくる。浮かべた微笑はいつもと何ら変わらない、純粋なそれで、俺はますます自分のさっき見たものが信じられなかった。(だって公言しているわけじゃないが、コレットちゃんは俺たちがその・・・・普通の関係でないことはそれとなく察しているはずだ、)

ふと、赤い絨毯の上に立ち止まったコレットちゃんは俺を見上げて言った。

「だって、仕方ないでしょう?」
「え?」
「起きている間は、ロイドはゼロスのだもの。だから、寝ているときにするしか、ないじゃない」

直接的な言葉にどきりとした。薄々感づいているだろうと知っていたものの、言葉にされるとなかなかにキツイものがあった。

ゆっくりと、再び歩き出したコレットちゃんは、俺のすぐそばに来ると、すこし濡れた俺の赤毛に触れた。

「いい匂い。綺麗な髪だね」
「あ、の・・・」
「赤くて、つやつやして、とても、キレイ」
「・・コレット、ちゃん?」

真意を問おうとその顔を覗き込む。背筋が凍りつきそうになった。深い、暗い、闇を注ぎ込んだような瞳。薄く持ち上がった唇。

「わたしも赤毛になったら、ロイドはわたしをみてくれるのかな」
「なに、いって、」
「ねえ、似合うとおもう?わたしに、赤い髪の毛」
「コレットちゃん?」
「ゼロスの血で赤く染めたら、わたし、キレイになれるかなぁ?」

いつしか、触れた手はひどく強い力で俺の髪をひと房つかんでいた。引きちぎられそうな髪の毛。俺はとうとう震えを堪えることすらできなくなっていた。

そのとき、むこうで微かな物音がした。張り詰めた室内の空気が急激に緩和される。ロイドが寝返りを打ったのが遠目に見えた。コレットちゃんは俺の髪を離すと、うっすら微笑んで部屋を出て行った。

つかまれていた髪をそっと撫ぜる。指が戦慄いた。だいぶ湯冷めしてしまっていた。







(・・・風呂、入り直そ、)