あったか、おすそわけ
さむい、泣きたくなるくらい。
降り積もる淡雪、白い夜を薄く照らす儚い街灯、そこかしこで聞こえるジングルベル。
じろりと横のロイドくんを睨んだけれど、表情が見えないからそれに気づいているのかもわからない。妙によくできた被り物を心の底からどつきたい気分だ。
女の子に小ぶりの箱を渡していたロイドくんは、お金を受け取ってからこっちを向いた。
「なんだよゼロス、さっきからじろじろ」
「べっつにィー?寒いなー、俺さま死んじゃいそうだなーって思っただけー」
「だって、ゼロスがそっちがいいって言ったんだろ」
「・・・う・・そうだけどね、」
言われて、自分の格好をも一度見る。もこもこの赤地に白の縁取りの上下。首元にはリボン、頭にはお決まりの三角帽。そして悲しいかな、下は膝上のミニスカートとショートブーツだった。いわゆる、典型的な、サンタさんの服だった。こんな格好で冬の夜を乗り切れだなんて、イエスさまもマーテルさまもお怒りになるぞこのやろう!
本当は、スカートだから、ロイドくんに着せたらぜったい可愛いよ俺きっと悶え死んじゃう!と思ったけど、その脚を行過ぎる野郎の目に晒すのが耐えられなくて自分で着た。本当に苦渋の選択だったけど、俺さまのプライドとロイドくんの脚を天秤にかけたらギリギリのところでロイドくんが勝ったのだ。(だって俺にとってロイドくんに勝るものなんてあるわけがないんだから)
寒さを選んでトナカイの着ぐるみをロイドくんにあげたのは自分だ。だけど、こう寒くちゃ愚痴のひとつもこぼれてしまう。
「もー・・・なァんで俺さまがこんなことしなきゃいけないのよー・・」
「しかたねぇじゃんだって俺たち金持ってねえもん」
クリスマスケーキいかがですかァと、通りすぎる家族連れに呼びかけながら当然のようにロイドくんは言う。ロイドくんが折れないことは知っていたけど、それでも言ってしまう。
「う・・・・だから、俺さまの家の資財を使えばいいじゃないって何度も言ってるじゃない」
「それはお前の家の財産であって俺の財産じゃないだろ」
「むー、当主がいいってゆってんのに・・・」
「よくない」
これからのエクスフィア探しの旅の資金にワイルダー家の財産を使うのを、ロイドくんは頑なに拒んだ。自分自身の旅だから、自分で稼いだ旅費で旅をしたいのだと言い張った。それで、仕方ないから俺もそれに付き合うことになって、フラノールのケーキ屋さんでクリスマスの間だけ雇ってもらうことになって、今に至るわけだが。
「いくら時給が破格だからって・・この寒さは酷いぜ・・・・」
「はいはい、文句言わない。働く働く!」
リンリン、手に持ったベルを鳴らしながらロイドくんが注意する。(ううう、だってだってロイドくんのがあったかいじゃん!ぜったい!)
恨みがましくみつめていると、ロイドくんはこっちをみて、小さくため息をついた。そうして、ちらちらと周りを見回すとベルをテーブルに置いて、一歩踏み出して、大きな被り物を持ち上げて、ちょっと背伸びしてそうして。
触れた唇はひどくあたたかかった。すぐにロイドくんはトナカイに戻ってしまったけれど、その顔は耳まで真っ赤だった。(あーやっべ俺冬なのにちょう熱いんですが!なにこれ異常気象じゃねえの顔が火のようですよこのやろう!)
あったまったかよ、と小声で問うてくるロイドくんは恐ろしく可愛らしくて、俺は何度も何度も首を縦に振った。じゃあ、ちょっとは真面目に働けよな、と言うから、さらに熱心に振った。ロイドくんはちょこっと笑って、それから、最後の1コは俺たちが買おうなと言った。首を何度も振ったせいで肩が凝った。
泊まっているのは金銭の都合上安宿で、いつものクリスマスみたいに豪奢な部屋も壮麗な装飾もあったもんじゃない。
だけど、あったかいベッドとおいしいケーキと、それからきみさえいれば、それでいい。それがいい。
きみのとなりは、とてもあったかい