無題
起き上がると独特の倦怠感があった。
あーくそ腰いてぇ、今日動けねぇかも。そう思って、昨日滅茶苦茶に自分を抱いた男に目をやる。
しあわせそうな寝顔に、横にいるのが本当に自分でいいのかなとか、柄にもなく考える。
自分の幸せなんかはなっから期待しちゃいないから、せめてロイドくんが幸せであればとおもう。そう言うとロイドくんは決まって、お前と一緒にいるのが幸せなんだよと言うから、俺は困ってしまう。
小さい頃から信用とか信頼とか、別の世界の話だと思っていたから、手放しで人に信用されると照れてしまう。ロイドくんはそんな俺を知った上で、毎晩毎晩飽きずに好きだよとか信じてるよとか言うんだから、ひどい男だ。
安らかな寝息と痛む腰、相乗効果でむかついて、鳶色の愛おしい髪をちょっとだけ引っ張った。
救いの塔を出た後、ロイドくんは小声で俺にバカと言った。俺はきっとロイドくんに軽蔑されてしまったのだと思った。けれどそうじゃなかった。すぐに付け足された短い言葉。心配しただろ、なんて、馬鹿みたいにカッコイイ言葉。思わずちょっと泣いてしまった。そんなこと言われちゃもうどうしょもない、ロイドくんについてくしかないじゃない。
「・・・ほんと、プロポーズかとおもった」
ぽつりとつぶやけば、いつの間に起きていたのか、何がとロイドくんが問う。俺が見下ろすとロイドくんの頬を伝う赤毛を、ロイドくんは嬉しそうに指で弄んだ。身体を折って軽くキスして、おはようハニーと抱き締める。抱かれた次の日の朝は、なんだか恥ずかしくてロイドくんとは呼べない。
ロイドくんは俺の背にゆっくり腕を回して、もういちど、何の話?と聞く。笑って誤魔化したら目で怒られたから、救いの塔の後のこと、ってささやくと、なにそれ全然覚えてねえよと言われた。俺は笑った。
俺にとっては人生ひっくり返されちゃうくらいの衝撃だったんだけど、言った本人からしちゃ、どうでもいいことだったらしい。ロイドくんらしいっちゃらしいけど。
そんなこと言ったっけなんていつまでも考えるロイドくんをもういいよと制して、腹のあたりまでずれた毛布をかけ直す。
覚えていたっていなくたって、どっちだっていい。忘れてもかまわない、忘れないから。
縋るように胸に顔を埋めると、硬い手が頭を撫でた。
しばらくしてロイドくんはつぶやいた。
「心配したに決まってるだろ、俺のそばにいないときはいつだってお前が心配なんだから」
(・・・・やっぱ、覚えてたんじゃんか、ばか)
もどる
――――――――――――――――――――――――――――――――
先月買ったB/U/M/Pのアルバムがすごく泣けたので一節歌詞引用です