きもちわるい、
さっき追い払った魔物の血が首筋に付着していた。念入りに湯で流して、風呂場のくもった鏡を覗き込んだ。ザァザァ、流しっぱなしのシャワーがうるさい。
汚いものは嫌いだ。所謂、同属嫌悪というやつに近い。
まるで選りすぐったように世の中のどろどろしたものばかり映してきた暗い目。罵られることに慣れた耳。幾つも命を葬ってきた醜い手。何人もの人間が止めようとした矮小な心臓。
俺は、汚い。
覚束ない頭で風呂を出ると、窓際のベッドでごろごろしていたロイドくんが緩慢にこっちを見やった。その顔が不機嫌そうに歪む。
「なにゼロス、誘ってんの?」
「・・・バカ、ちげぇよ」
答えてさっさとズボンを履く。自分のベッドに座り込むと、濡れた髪が背筋に触れてうざったい。
ぼんやりバスタオル1枚で出てきてしまったのは失敗だった。背後から感じるあからさまな視線。(こいつが俺に惚れてることなんてずっと前から知っていたのに)
ふと、ロイドくんが動く気配があった。振り向けば、すぐそばに迫っていた顔に驚く。なにをと聞く間もなく、強引なキス。(あ、くそ、舌入れんな、)反射的にやわらかい唇を噛んだ。短い悲鳴。ロイドくんは飛びのいた。スプリングが鳴く。涙目になりながら、お前は生娘かとぼやく。
「・・・・そんなに、嫌なのかよ」
そういうわけじゃ、ない。
否定したかったのに声は出なかった。ロイドくんは失望したように俺から目線をそらした。
「クラトスには許したくせに」
割り切れないつぶやきを聞いてはっとする。瞬間、走る戦慄。
「・・・・・なん、で」
「この前、見た」
世界が、歪んだような気がした。
ロイドくんにだけは知られたくなかった。俺の醜いところなんて見せたくなかった。(否、俺が醜いことなんてとっくに知られてしまっているのだけど、)でも、ロイドくんにだけは、見られたくなかった。だってあれはロイドくんに触れるのが怖くてあいつに強張った行為だったのだから。返す言葉すら見つからなくて唇を噛む。
黙りこくった俺の手首をロイドくんがつかんだ。視界が反転しても俺は今度は何も言わなかった。言えなかった。
強引に押し倒したくせにロイドくんは優しかった。どこまでも優しく丁寧に俺を扱った。ロイドくんの真っ直ぐな目に映る俺が嫌だった。俺のせいでロイドくんまで汚れてしまうのは許せなかった。
あたたかい腕に抱かれながら俺は泣いた。
涙の跡を撫でる指さえやさしくて、このまま消えてしまいたくなった。
流れ込む醜悪
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