ロクセンチ












腰を屈めてキスをすると、ロイドくんはちょっと複雑な顔で笑った。

どうしたのよと聞くと、後ろから膝を蹴られた。かくり、絵に描いたみたいに崩れ落ちる身体を、蹴ったくせに、ロイドくんが抱きとめた。すぐそば、ロイドくんの顔。心臓が変な音を立てた。抱きとめられただけなのに、キスだってセックスだって数え切れないくらいしているのに、いまだに、見つめられるのは気恥ずかしいから困る。そんな俺の男心をどこか鈍感なロイドくんはわかってくれないから困る。

俺がもごもごしているとロイドくんが顔を近づけて言う。


「・・・お前さ、あと10センチぐらい縮めよ」
「ええ?・・い、いやさすがに俺さまの素晴らしき能力を以ってしてもそれは無理だから」
「わかったじゃあちょっと譲って5センチでいい」
「いやあのそうゆう問題じゃねえって、むりむり、いくらロイドくんのお願いでもむり、」
「じゃあ大負けに負けて3センチ。俺が頑張って4センチ伸びるから」
「・・・・・要するに俺より背を伸ばしたいわけね、」


あたりまえだろ、俺から腕を離して、ロイドくんは言う。荒野を再び歩き出したその後を追う。


「ねえ、なんで?」
「あ?」
「今のままでもいいじゃない、べつに」
「よくない」


キリ、振り返ったロイドくんの目が光る。俺が目をぱちくりさせると、ロイドくんが力説する。


「だって今の身長じゃお前を見下ろせないだろ、俺は好きな子の頭を上から撫でてやれるような大きい男になりたい!」


俺だってすぐに7センチは伸びないだろうし、そんなの待ってる時間がもどかしいし。

ぼそぼそとつぶやくロイドくんは可愛らしくて、俺は思わずくすくすと笑う。あっおまえいま笑っただろバカにすんなよな切実な問題なんだからな、ロイドくんが怒る。俺はなおさらに笑った。


「ゼーロース!あーもっ、バカにしやがって!今すぐ笑い止まないとこの場で犯すぞ!」


じわりじわりとにじり寄ってくるから、これはちょっとまずいと気づいて手で口を覆うけれど、時すでに遅し、気づけばどんと胸を押されて、野原に仰向けにされていた。視界の反転する一瞬、頭上の男のその向こう、燦々と照る太陽に目を貫かれたような気がした。刹那の沈黙の後、背中にかかる大の男ふたり分の体重。(ちょっ、ロイドくん、ちょっとは加減してくれないと俺ぎっくりになっちゃうからさあ!)衝撃に痛む腰を擦ると、そんなことも気にせずに俺に跨ったロイドくんの手袋越しの手が俺の身体の線をたどった。明確な体温にざわりと肌が揺らめく。


「あ、ちょ、すと、ストップ、ね、ロイドくん悪かったってごめんなさいほんとごめんなさい俺さまちょー反省してる許しておねがい」
「い、や、許さないな」
「えっ!ほほほんとやだってばロイドくんねえ!」
「・・・・こちょこちょの刑」
「え?」


じたばたしていた俺がおどろいて動きを止めた瞬間を見逃さずに、ロイドくんの魔の手が伸びる。まっすぐに脇腹を目指した腕を止めようという意識が働いたのは、ロイドくんの指が俺の腹を掠めたときだった。こちょこちょと不規則に両手を動かされては抗えるはずもなくて、俺は野原に寝転んだまま、大口開けて笑った。涙が出るほど笑った。いつの間にかくすぐるのをやめていたロイドくんもわらった。とほうもなくしあわせだった。




笑い疲れた頃に、ふと、思ったことを問う。


「ねえ、ロイドくん」
「んー?」
「俺が、背が高いのは嫌い?」


俺の上で満足そうにごろごろしていたロイドくんがぱちりと目を開ける。眠いのか、どこかとろんとした目で答えた。


「バッカ、ゼロスは大きくても小さくてもかわいんだよ」


当たり前のように、そんな風に言われて自分で聞いたくせに恥ずかしかった。(も、いやだこの天然たらし・・・!!)

それでも期待通りの答えはやはりうれしかった、とても、とても。






(・・・あー、身長、縮まねえかなあ)








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