見つめているつもりはなかったが、そう感じたらしかった。ミトスもやるか? 小石を持ち上げロイドはたずねる。パチパチリ、爆ぜる炎に照らされた顔はにこにこと笑っていた。
ロイドたちのいた村でよくやっていた、簡易なボードゲームだという。ミトスはゆっくりと首を振った。そうかとうなずいて、ロイドはリフィル先生に呼ばれているからと言い残し向こうのテントに歩いて行った。
「ミトス、ごめんね、」
ボクたちが盛り上がってたから、つまらなかったでしょ? ジーニアスが言うのにも、そっと首を振った。
「考えごとをしていたから、気にしていないよ」
「考えごと?」
「あ、えーと、たいしたことじゃないんだ。それよりジーニアス、今日もだいぶ歩いて疲れているだろう?もう休んだらどうかな、火はボクが見ているから」
「歩いたのはミトスもじゃないか、パルマコスタまではまだ距離があるから、火の番はボクに任せて寝ておいでよ、」
自分は戦闘には参加していないし、たいして疲れていないからと、ミトスは主張した。ジーニアスは渋っていたが、やはり疲れには敵わなかったらしく、目蓋をこすりながら自分のテントにもどっていった。
ひとり残されミトスは膝を抱えた。いつのまにか肩からずれ落ちていた毛布を首に巻き直す。夜風にはどこかの遠吠えが乗り響いている。木の葉さえも寝息立て、森は寝静まっていた。倦怠感はいくらかあったが、休息をとる気はしなかった。脳裏をよぎるのはアイスブルーの瞳である。
(ジーニアス、)
闇に包まれようともかがやいていた眼は、生命溢るるよう力強い眼はきっと、炎のせいではない。
(・・・・・同じハーフエルフなのに、どうしてこんなにちがう?)
本当は、答えはほとんどわかっていた、ただわかりたくないだけだった。
(・・・ロイド)
ロイドという存在にミトスが最初に覚えた感情は、紛れもない嫌悪であった。
四千年の後の、クラトスの裏切りの証拠たる少年、死んだとばかり思っていたのにのうのうと生きていた。ミトスはその事実に初めこそ苛立ったがやがて、少年を利用しようと考えた。
自分の手のひらの上で動いているとも知らず世界を奔走する姿に優越を感じるようになった。
そうしていつしか、優越はかたちを変えた。
憎しみと憤懣、それからわずかの、羨望。
ミトスは乾いた心のどこかで、たしかに彼を羨んでいた。彼とともに笑うジーニアスの共鳴するようなまばゆさに、あるいは嫉妬すら感じていた。
ともすれば、昔々、過ぎ去った遠い昔にロイドがいたならミトスは、ジーニアスと同じ目をしていたかもしれなかった。ジーニアスのように眩しさをはじき爛々と、光を抱いていたかもしれなかった。(ああもしも、暗い闇の底に沈んでしまうその前に、きみに、会えたら、)
パチリ、
思考を遮ったのは飛び散る火花である。炎はいささか背丈をちいさくして、小腹が空いた、さあ薪をと、催促している。ミトスは我に返って毛布のあいだから手を伸ばし、マナを手のひらで撫ぜて火をつぎたした。
世迷言だ。ミトスは首を振る。自分は道を選んでしまった。そしてそれは間違っていない。薄汚い人間を羨むなど気がどうかしている。本当は思っているより疲れているのかもしれない。ロイドがもどって来たら見張りを替わらせようとミトスは思った。冷たく炎を見据える瞳、灯りに揺らめけども光はなかった。
水底に、光はとどかない
乾いた頬には一筋だけ伝っていた。
四千年を生きる少年は、あるときふとあの日々に戻る。
(・・・四千年を、遡ってよ)
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