道具屋を離れると、ロイドはしいなの持っていた袋をひょいと取ってかわりに買い物のリストを渡した。しいなはそれを受け取って、砂道を歩きながら買ったものを指でかぞえ確認した。ロイドはその横を、両手に大荷物抱え歩く。俺は頭がわるいからしいなが数を確かめた方がいいんだ、というのが、初めてしいなと買出しに行ったときにロイドの言ったことである。遠まわしな言い方で重い荷物を持ってくれるロイドに初め、しいなはすこし申し訳なかったがロイドがいつもあっけらかんとしているのでもう気にするのはやめた。


上からひとつずつチェックしていって、しいなはうなずいた。買い忘れはないはずだ。二つに折って腰のポケットにしまったときにふとキラリ、光が目を突いて思わずそっちを向く。雑多に並んだ露店のひとつ、ずらりと装飾品の並んだ店がある。ガラスが反射したらしい。ロイドが視線に気づく。


「寄ってくか?」
「へ? あ、いいよいいよ、買出しの途中だし!」
「もう宿にもどるだけだし、ちっとくらい道草しても、リフィル先生も怒んねえだろ」


な、と笑顔で言われては、しいなも後には引きづらい。幾重にも日除けの布を巻かれた屋台に、しいなは近づいた。


トリエットのガラス細工は有名だ。イフリートの加護を受けたこの地には良い熱があふれ、ガラスの加工に適しているという。露店に並ぶ品にもガラスを使ったものが多く、時おり沈みゆく日を受けてはかがやき、自らに伸びる手を待ちわびていた。


しいなはその中から、隅の籠に入っていた桃色の髪飾りを手に取った。丸いガラスの中には加工が施されてキラキラと、光を跳ね返してうつくしい。シャラシャラとまわりの紐に結ばれた小さなガラスが音立てるのも耳に心地よかった。


幼い頃から勝気で決して女の子らしい性格ではなかったから、せめて身につけるものだけはと、周りの大人は女の子らしい色のものをしいなに着せたがった。だからしいなは、可愛らしい色が好きだ。そんなに値も張らないようだし、買ってしまおうかと思ったとき、横にいたロイドが言う。


「それ、気に入ったのか」
「えっ? あ、ああ、うん」


ふうんと、あまり興味はなさげにロイドはうなずいた。しいなの心はしぼむ。もしかして贈ってくれるつもりなのだろうかと一瞬期待してしまったから、すこし、がっかりしたのだ。だからというわけではないけれど、なんだか気が抜けてしまってしいなは手にしていた細工物を籠にもどした。


「あれ、いいのか?」
「うん、あーその、また今度にしようと思って」


店を去りながらロイドはすこし気まずげに、ごめんな、と言った。しいながふりむくとロイドはばつの悪そうな顔をしている。


「ごめんって、なにがだい?」
「俺があんまり機嫌、よくなさそうだったからしいな、気にしただろ」
「! べ、べつにそんなこと、」


ふうー、ため息をついてからロイドはしいなから目をそらしてつづけた。


「ほんとはちっと、やきもちやいた。しいな、嬉しそうに見てたから。・・・俺がもっとキレーなの、しいなに作ってやるのになーって、思った」


つまんないことで嫉妬したりしてごめんな、あやまるロイドにしいなは返事ができなかった。顔が赤いのを隠すのにいそがしくて、それどころではなかったからだ。気にしてないよ、七文字返すのがせいいっぱいだった。


しいなは、いつかロイドがその、『もっとキレーなの』をしいなに贈るまでは、他の装飾品は買わないでおこうと思った。ロイドはそんなことを言ったのなんて、ひょっとしたら忘れてしまうかもしれないが、でも待ち続けるくらいはきっとゆるされるだろうとおもった。いつ贈られるとも知れぬ、形もまったくわからない贈り物、ぼんやりとその輪郭を想像するだけでわくわくと、胸がはずんだ。