(ロイド×リーガル)




仕事を終えてジョルジュに後を任せ、電気も消えた廊下に出ると、薄暗い大理石にはぼんやりと赤が反射して揺らめいている。ひっそりと佇んでいた少年は革靴の音に顔を上げ、一歩歩み寄った。窓から差しこむ月明かりにおぼろげに、いくらか大人びた顔立ちが浮かび上がる。リーガルは薄く微笑みながらスルリとタイを緩めた。折り目正しい正装の、襟元だけがだらしない。ロイドは片眉を持ち上げてみせた。


「いいのかよ、会長さまが」
「プライベートだ、構うまい。それともお前は私にずっと着込んでいてほしいのか?」
「まさか」


だいたい正装って脱がしづらくってあんまり好きじゃないんだよな、直接的な物言いにリーガルは苦笑した。


会長の私室に着けば、どちらからともなくキスをする。じゃれるように語らうように、暗闇に相手の眼見つめながら、しばらく。出会った頃は野性に生きていた少年も、二人、旅をするうちにすこしばかり大人の気配を滲ませるようになっていた。


余韻、ゆったりとロイドが広い肩にもたれるとリーガルはドアに背をあずけたまま囁いた。


「すまぬ、また、待たせてしまったな、」
「? ・・・ああ、気にしてねえよ、仕事の引き継ぎ、いろいろ大変なんだろ」
「・・ありがとう」
「ん。・・それに、久々にまともなベッドでけっこう嬉しいしな、」


リーガルにも負担かけないで済むし、そう言ってロイドはまたキスをした。今度はじゃれあうような、それではなかった。


エクスフィア回収の旅に出て数ヶ月が経つが、大きな転機を迎えた世界で中軸を担うレザレノカンパニーの会長がそう長いこと本社を空けることもできず、不定期に立ち寄っては仕事をしてまた旅に出るということが続いていた。つまりそのたび足止めを喰らうことになってしまうから、リーガルは内心、ロイドに申し訳なかった。


もし重荷ならば、自分を残して行ってもいいのだと、行為の後にリーガルは言った。横で水を飲んでいたロイドはきょとんとする。それからわざわざ怒った顔をつくってみせた。


「バカ言うなよ、俺はリーガルを置いていくつもりなんてねえよ」


もっかい言ったら次は襲うぞ、それだけ言って、ロイドはベッドサイドのランプを消した。暗闇の中、先の言葉を強調するようにぎゅっと首を抱きしめてくる。やわらかな毛先が頬を撫ぜて、あたたかな息遣いがくすぐったかった。リーガルは小さく笑った。


「・・・わからんな、このようなつまらぬ男のどこがよいのだか」
「なんだよぜんぶ言わせるつもりか? 朝が来ちゃうぞ?」
「(・・・・・あまりそういう台詞をさらりと言わないでくれ・・)」