スノウスノウ


※パラレルです。設定↓

・本編クリア後
・クラトスがデリス・カーラーンに行っていません
・ルインの近くに二人きりで住んでいます
・親子は基本的にラブラブです


以上を許せる方のみお読み下さい
苦手な方はバックでお願いします




















今年初めて雪が降ったからと窓辺ではしゃぐロイドを、クラトスは穏やかにみつめた。息子と一緒に暮らし始めてから、今までは気にもならなかった四季の移り変わりが新鮮でたまらない。こんな風に息子と穏やかな日々を送ることなど予期していなかった父にとって、この新しい生活は安らかな幸せに満ちていた。


朝起きるなり家を飛び出した息子の後ろ姿を愛おしげにながめてから、クローゼットの中の手袋をふたつ、マフラーをひとつ取り出して、後を追う。冬のはじめに買った手袋を忘れて出て行った慌てん坊の手が冷える前に、届けてやらないといけない。


家を出ると風がひゅうと頬を撫でる。ルインに程近いこの家は、同時に湖が近く、冬はとても寒かった。


しんと冷えた白銀の世界、先に飛び出したロイドの足跡はくっきりと残っていた。わざと歩幅をせばめて、同じところを踏むように歩いてみる。すこし歩けばすぐに足跡の落とし主は見つかった。家の近くの大きな樫の木、雪の薄く積もった枝葉を見上げているのを、うしろからそっと腕に抱くと、振り返ったロイドが微笑む。その手を取って、持ってきた手袋を手ずからはめてやる。冷たい指先に触れると、くすぐったそうな笑い声が耳を震わせる。両手とも被せるとロイドが、色違いの手袋に包まれたクラトスの手を握った。


「・・・ありがと、父さん」


細い声。淡く積もった雪に日差しが染み込むように、冷えた身体の奥に、温かい感情が、ゆっくりとゆきわたる。


そっと頭を撫ぜると、いつまでも子ども扱いするなよと、子どもっぽい顔でロイドは言った。






フラノールで教わったという、「かまくら」を作るのだとロイドは意気込んで言った。前々から楽しみにしていたらしい、家の裏の物置からスコップまで出してあった。


樫の木の周りの雪をせっせと集めて、山のように積み重ねていくのを、クラトスは小さなスコップで手伝う。さすがに大人の男ふたりで作業すれば山はすぐに高くなり、あっという間に、ロイドの腰の高さまで届く。届いたところで、ロイドはふうと白い息を吐いてしゃがみこんだ。


「ロイド?・・どうかしたのか?」
「雪が、なくなった」
「え?」


見回すと、そういえば家の周りはもうほとんど濡れた地面だった。もともとそこまで積もっていたわけではなかったし、日が出てきたせいで幾分溶けたのだろうと容易に想像がつく。この様子では遠くから運んでくるにしても、途中で溶けてしまうだろう。かまくらには思っていたより大量の雪が必要らしい。


「・・・・俺の身長も超しちゃうような、おっきなかまくらが作りたかったのに・・・」


しょんぼりするロイドに、クラトスは何と言ってやればいいかわからない。十数年間の親子の空白をうらむのが関の山だ。仕方なく目線を泳がせていると、ロイドがパッと顔を上げた。さきほどと打って変わってキラキラした瞳。クラトスはパチパチと目を瞬いた。


「クラトスの魔術で凍らせられないのか?」
「あ」


画期的な提案にうなずこうとして、止まる。期待に満ちた息子の顔を直視できずに目をそらす。


「クラトス?」
「・・・すまぬ、ロイド。私はそのような術は使えんのだ」


消える瞳のキラキラ。代わりに落胆と悲しみの混ざった色彩が加わる。クラトスは自分の不甲斐なさを心の底から嘆いた。いっそ目の前の雪の山に埋もれてしまいたいと思った。けれどそうする前に、クラトスのせいじゃないんだから気にしなくていいよとロイドが言った。その頬の赤いのに、クラトスは気がついた。


「ロイド、」
「うん?」
「手を、見せてみなさい」
「へ、」


いいからと手を引っ張ると、手袋は雪のせいですっかり濡れてしまっていた。制止を無視してぺらりと剥がすと、白い手は赤く腫れ、しもやけができてしまっていた。


「さっきから痛んでいたのだろう、どうして言わない、」
「・・・だって、言ったらかまくら作んの、だめって言われると思ったから、」
「当たり前だ馬鹿者!」



頭を軽くはたいて、首根っこをつかんで、あたたかい我が家に強制連行。小さいバケツに湯を汲んでロイドの手をつっこんで、2階から毛布を持ってきてロイドの身体にぐるぐる巻きつけてソファに安置して、一方的に命令。


「私は外で後片付けをしてくるから、手がすこしよくなったらココアを入れておきなさい」


ロイドがしょぼんとうなずくと、クラトスはさっさと家を出て行ってしまった。






しばらくして、じんじんしていた手がちょっとずつ温度を取り戻してきたのを感じて、お湯から手を抜く。ぽたぽた垂れるのを毛布でてきとうにぬぐってから立ち上がった。


たしか、ココアを入れろと言っていた。疲れに重い足をのろのろとひきずって、お湯を沸かして、棚からココアの粉の入った缶を取り出して、マグカップにザカザカ投入。自分の分は多め、甘いのをあまり好まない父の分はやや少なめ。お湯が沸騰したところで加えて、最後にミルクを入れる。


猫舌ですぐには飲めないし、クラトスもまだ帰ってこないから、ロイドはすこし待つことにした。テーブルにマグを置いて、また毛布にくるまる。



やけに遅いなと思っていると、ようやく家のドアが開いた。入り込む冷気とともに帰って来た父親に走りよった。


「おかえり、ずいぶん遅かったな」
「・・・少々、手間取ったものでな」


ふうんとうなずいてから、そういえばとクラトスの手を見て思い出す。


「俺、たしか外に手袋忘れてきたよな、ちょっと取ってくるよ、」
「え・・あ、ロイド、」


呼ばれた気がしたけれど、すぐに戻ってくるのだからいいやと、ふらりと外に出た。樫の木の枝に、それは無造作にかかっていた。それを取る前に、木の根元に膝丈ほどの雪の山ができているのに気がついた。否、山ではなかった。それが、不恰好だけれどおそらく一般的には雪だるまと呼ばれるものだと気づくのには、なかなか時間がかかった。ごつごつした胴体に、なんだか上の方がとがった頭。しばらくじっくりと眺めてみて、ああこれはおそらく自分なのだとようやく気がついた。


気づいた瞬間、クラトスには悪いけれど、思わず、笑ってしまった。


かまくらを作れなかったのに自分ががっかりしていたから、自分のために作ってくれたのだろうと思考がめぐる。


(でもたぶん、上手く作れなかったから言いたくなかったんだな・・・)


不器用で照れ屋でたまにちょっと可愛い父。不恰好なやさしさに、ロイドはちょっときゅんとした。


見つめていると冷たい風が身体を撫ぜたから、手袋を取って早々に引き上げる。




帰ったらココアを飲みながら、父親をめいっぱいからかってやろう。









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