※本編クリア後の話です









星は遠かった。

数千年を過ごした故郷は遠く、遥かな遠くに在るのがわずかに見えるだけだった。

郷里を離れどれくらいの時が経っただろう。初めこそこの星の軌道の確保に忙しない日々が続いたが、このところは大した仕事もなく、ただ黙々と無限の時間を消費していた。


馴染んだ肘掛け椅子に座り、果てのない闇を見ていると、ふっと、残してきた者のことが思い出された。

懐かしい腐れ縁と、かつての仲間―――それから、息子。

泣きそうな顔で、震えた声で、私の最後を見送ったわが子。

目を閉じて、その名前を口にしてみる。


ロイド


世界が震える。唇が戦慄し、胸が厚く、空気が軽くなる。

たった3文字で、それがあの子の名前であるだけで、それだけで、こんなにも愛おしく、仕合せになる。

めぐりあえてよかった、一刻でも、そばにいられてよかった、生きていてくれて、よかった。


唇をなぞる。

まだあのときの感触の残っているような気がした。去り際、消える前に押し付けられたやわらかさ。乱暴で一途で切ない、最初で最後の口付けだった。

歯が当たって痛かったなと、苦笑しながら思い出す。

私があの子を思うようにあの子が私のことを考えていてくれたのが、正直に嬉しかった。

親子間で奇妙なことという自覚はあれど、それでもただ、ただ、うれしかった。


吐息をふっと吐いて、背もたれに倒れこむ。首元を緩めて数度深呼吸をした。

疲れているわけではない。天使の身では眠る必要もない。けれど眠りたかった。

遠く離れていても、夢の中ではもしかしたら、などと、馬鹿げているとは知っていた。

それでも、一瞬でも、あの子に逢えたら、今夜





夢で逢えたら




いいのにと、夜空を見上げた。

あの星のどれかにあいつはいるんだと思うと、胸がきゅうと痛んだ。

まるで察したかのように、となりのノイシュが顔を上げる。なんでもないよとそのやわらかい毛を撫でてやった。


一人旅にも慣れたけど、ふとしたときにあいつの顔は浮かんできた。そういうときは、首に提げたロケットは開けずに、空を見上げるようにしていた。前は開けるたび目が潤んでしまったから、そうした方がいいと気づいた。(それに、こうして眺めていれば、いつか遠くのあいつと目が合うかもしれなかった)

ひとりで行ってしまったあいつは今頃何をしているんだろう。あいつのことだから、仏頂面で仕事でもしているだろうか。そんなことはないとわかっているけど、すこしでも考えていてくれたらいいのになと、瑞々しい青草に寝転びながら思う。


父親として、人として、愛してた。(・・・・あいしてる)

数十年の時間が俺にはまだ残されているけれど、これ以上に好きになる人なんて、きっと、いない。

俺は多分、一生あいつとの約束を引きずって生きていくだろう。他人がそれをなんと言おうと、俺にとっては幸福なことだった。

あいつのために自分の時間を捧ぐ。そうすればずっと、あいつのことを忘れずにいられる。時間の対価には十分だった。

眠りに落ちる前、ふと、ちいさく名前を呼んでみた。

遠くの星が、微かに瞬いた気がした。









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クラロイの日、おめでとう!
デリス・カーラーンに行った父さんは書いたことがなかったので書いてみました
ED後の設定を正式に使うならこんな感じかなぁ