※暗いです、苦手な方はご注意下さい

















ネクロフィリアの薔薇











キツイ匂いの立ち込める温室に足を踏み入れると、中にいた男はゆっくりと顔を上げた。青白くこけた頬、もはや見慣れてしまった目の下の隈、それでもそいつの顔は穏やかだった。


「・・・今日は飯、ちゃんと食ったのか?」
「ジェイドがね、今日は軍服が着たいというものだから、」
「(・・食わなかったのか、)それで?」
「私ひとりでは、着せてあげられないんですよ。ピオニー、ほら、あなたも手伝いなさい」


そう言って、懐かしい細身の服を持ち上げる腕は弱弱しく、骸骨と紙一重だった。一筋だけ、薔薇のない通路を進んで行くと、白い棺の中の寝顔が嫌でも目に入る。自然な、眠っているような顔。何度見ても胃がむかむかする。こんな風に痩せ衰える前のサフィールによって音素の流れが精密に整えられたこの部屋では、この身体は一生朽ちないのだという。


ジェイドをこのまま安置しておくことは偲ばれた。それでもこの死体を埋葬でもしたら、おそらく残ったもうひとりの幼馴染も、俺を置いて逝くのだろう。


俺が突っ立っているのに業を煮やしたのか、サフィールが腕をよろよろと動かし、服を取り落とした。


しゃがみこんで、その手首をつかむ。痩せ細った幼馴染は幾分年老いて見えた。ふらふらと漂う視線がゆっくり俺に向かう。


「ピオ、ニー、」
「・・・・・ジェイドに、服を着せるんだろ」
「は、い」
「お前がそんな風じゃ、着せてやれないだろ。きちんと食事を摂れ、毎日運ばせているだろうが」
「そう、ですか」


うっすらとうなずいたけれどサフィールにはもはや思考能力など皆無なのだろう、自分の状態すら、ほとんど理解していないようだった。


痛々しくて、見ていられなくて、俺はただ、衰えたその身体をやんわりと抱き締めた。すこしでも強く掴めば折れてしまいそうな痩身。ずっと、ずっと触れたかった身体は、細く細く、ちいさく震えていた。




俺は最初からおまえを見ていたのに、おまえはあいつが死んでも俺を見てはくれなかったな。




ごめんな、黙っていたけれど、これからもずっと黙っているけれど、








あいつを殺したのは俺なんだよ


















もどる






+++++++++++++++++++++++++++++++++++
ディスジェでディストがジェイドを殺しちゃった話をピオニー視点でとか思っていたのにいつの間にかピオサフィとかいうオチだよこれ。どうしょもねえな
ネクロフィリアというのは死体性愛という意味だそうです