金髪に絡む砂埃を数度指の腹ではらうと、ナタリアははにかんでお礼を言った。(ごめんなさい本当はあなたのためじゃないわ、砂でさえあなたの髪に触れるのはゆるせないの)
砂漠の端の街は今日も黄色い風が吹いて王女の身を撫ぜる。華奢な身体を奪われないように肩を抱くと、うつむいた頬がかすかに染まった。離した方がいいのかしらとおもって指を引くと、はっと、ナタリアが顔を上げる。目が合うと、どうしていいかわからないように唇をもじもじとさせた。いじらしさについ笑みが浮かんだ。
「どうかしたの?」
「・・・わかっているくせに聞くのは意地悪ですわ」
「そうね、」
それじゃ手を繋ぎましょうかと誘えば、ナタリアはほっとしたようすでうなずいた。それからあわてて、両手を見つめる仕草が女の子らしかった。
「ナタリアの手はいつもきれいよ」
「汗をかいたり、していないかと」
「あら、お互い様だわ」
シルクに包まれた手のひらにそっと重ねると、戸惑いがちに、それでもうれしそうに何度か握り返してくるのが愛おしい。ナタリアの手は、お姫さまなのに弱いだけではないから好きだ。国を思い、守るもののために日々弓を引く強い手は、細いけれどしなやかに筋肉がついていて、うつくしいとおもう。
美しい手を引いて、騒々しいケセドニアの市をゆく。行商の商人が知らない言葉で、両手いっぱいに品を差し出すのを避けながら露店を見てあるく。気になるもののあるたび好奇心旺盛な王女は一瞬足を止めるから、それに付き合って店をのぞいてあげる。可愛らしい細工や奇妙な特産品に逐一反応するのがおもしろい。
互いに忙しい毎日を送っていたから、王女の市場視察という名目で久々にこうして会えたのはうれしかった。それにしても、素直に一言、会いたいと手紙をくれればいいのに、市場視察に同行を命ずる書状の送られてきたのには笑ってしまった。人の気持ちを大事にするのに、変なところで不器用な王女さま。
思い出してくすくすと笑っていると、気がついたナタリアがにらむ。
「ティアったら、なにを笑ってらっしゃるの?」
「いえ、たいしたことじゃないの」
「まあ!だったら教えてくださってもよろしいんじゃなくて?」
「ただの思い出し笑いよ、話すほどのことじゃないわ。―――あら、」
拗ねる少女の向こう、露店の片隅の竹籠の中、可愛らしい花の飾りをみつけて手を伸ばす。持ち上げるとシャラシャラと澄んだ音を立てる、青い石のはめ込まれた繊細な細工。宝石の色合いが愛する少女のひとみに似ているから目に留まった。店のおばさんにつけていいかと聞いてから、わたしよりすこし背の高い、ナタリアの金髪にそっと留める。急に手を伸ばされたナタリアはすこしおどろいて、それから、
「こういうものは、自分でつけた方がいいんじゃないかしら、ああ、ほら、鏡もあってよ、」
「わたしじゃないわ、ナタリアにいいと思ったのよ。・・・すてきね、よく似合ってる」
「・・・・でも、あなたが気に入ったものでしょう?」
困惑したように、ナタリアは首をかしげる。思いやるのは自然にできるのに、わたしの気持ちには本当に鈍感な王女さま、ときどき困ったりもするけれど、そこが愛おしい。
店のおばさんがお釣りを数えているあいだ、かわいいわよと耳元にささやくと真っ赤な顔をして、やっぱりあなたがつけたらいいんじゃなくてと声をかすらせる。微笑んだ。
(ばかね、あなたがつけているからかわいいんじゃない)
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もーほんと、すき・・・ティアナタ・・・・
百合でこんなに萌えたカプは初めてだとおもいます
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