春の夜、いささか涼しさの残るのに上着を脱いだ息子、内心で不思議に思った。今日は先に風呂に入るのかと思って聞いてみたがロイドは首を横に振っただけだった。どうかしたのだろうかと思いながら、手元の本に視線をもどす。タンクトップ、剥き出しの肩はなんというかすこし、目のやり場にこまる。


読書に集中しようと組んでいた足をかえて、ページをめくる。二人で暮らすルインの外れはひどく穏やかで、本を読むのにはちょうどよかった。昨日から読み始めた歴史の本には時折よく知った名前が出てきておかしかった。


ふと、ランプに照らされたテーブル、膝に置いた本、影が落ちた。同時に肩に、重み。目だけ動かして振り返ると、ソファにいたはずの息子がうしろから、首に抱きついていた。石鹸と汗がいくらか混じった匂いに口元がゆるむが、その腕の冷えているのに眉根は苛立った。


「風邪を引くぞ、上着をきるなり風呂に入るなりしなさい」
「やだ」
「やだではない、」


パタン、閉じて、自分の上掛けを腕ごと脱いだ。肌にかけてやるといくらか不満げに、ロイドは唇をとがらせた。


「む、なんだその顔は」
「・・なんでもねえ」


ぷいとそっぽを向いたあごをつかむ。目で問い詰めるとロイドは戸惑いがちに、言った。


「クラトスさあ、むらむらとか、しねえの?」
「・・・・・・・・は?」
「俺すげーいっしょうけんめいゆーわくしてたんだけど」
「・・・・お前は、ようすがおかしいと思ったらそんなことを気にしていたのか」


う、言葉に詰まる息子に笑う。ばつがわるい表情で、恋人同士なのに、なんにもしないのはヘンだと、テセアラの神子に言われたのだと話した。(一度、締める)


「まったく、あんな神子の言葉など気にするものではない。・・・風呂が嫌ならはやく部屋に行きなさい」


泳ぐ目で渋る息子、いくらか意地の悪い気持ちになって、たずねる。


「仮に私がその誘惑とやらに負けたとして、襲い掛かったりしたらお前、どうするのだ」
「え?」


執着していたのにいざ聞いてみればきょとんとした顔で、ロイドは目を白黒させた。その挙動がおかしくて、噴出しながら、頭をぽんぽんと撫ぜる。


「さ、子どもは寝る時間だ、部屋にもどれ」
「・・・そうやってまた、ガキ扱いするんだもんな、も、いい、・・いい、寝る、おやすみ」


子ども扱いが気に入らなかったのか、(いつまで経っても子どもは子どもなのに、)ロイドはぷんと頬を膨らませ踵を返した。


となりの部屋のドア、閉める寸前でロイドは小さく言った。


「・・・・・クラトスなら、べつに、いい」
「!」
ぱたり。


(ちょっとまてそれは反則だ今にも誘惑に負けてしまいそうになるだろうがロイドおまえというやつは!)