勘弁してよってかんじだった。俺、二十七歳、男。ストーカー、十七歳、男。冗談きついぜまじで。教え子に手を出した教師の例というのは在学中から、まさしく反面教師として語られていたわけだが生徒に手を出されそうになっている教師の話はほとんど耳にしたことがなかった。そして現在の俺、ジャスト、それ。(やばい、まじで、泣きたくなってきた)


朝イチで職員室に殴りこみ、昼休みはあいつが横で騒ぐせいで事実上食堂に出禁になり、しかし俺がどこで昼食をとろうがあいつは犬の鼻を持っているがごとく気づけばとなりにいて、放課後になれば授業のここがわからないと数学の教科書を広げうれしそうにやってくる。(お前そこは昨日も教えただろーが!! あっごめんゼロスの声気持ちいいからあのときは寝てた! っばかやろう!!)せめて授業くらいは他の担当に振ってくれればいいものを、なぜかあいつのいるクラス、三年連続数学の担当は俺。(校長なぜそこで変に空気を読んだ!)おかげで授業中まで、にこにこと視線を送られる始末。(ああ、生徒だった頃より不登校になりたいこの気持ちはなんだろう?)


悲しみの木曜六限を終えて、俺は三年A組のドアをぴしゃりと閉じ、ノートをぎゅっと抱えると、駆け出した。(教師だって走るときは廊下を走るんです!)瞬間うしろのドアが開く音、俺の背を追う。足の早いストーカー、勝敗は五分五分といったところだが今日の俺はちがう。新調した上履きは今までのそれより頑丈で走りやすく、軽いのをわざわざ選んだのだ。(二十六歳の脚力なめんな!)とにかくやつを撒こうとじぐざぐに、俺は校舎を行った。


そうして体育館裏のあたりまで逃げて、息切らしながら振り返る。姿はなくて、ほっとする。(やった、今日は、安息の放課後を勝ち取った・・! 帰ってDVD見よう・・・! 今週は期日にちゃんとツタヤに返せるぜ・・!)


辺りを警戒しながらこそこそと、グラウンドの方にもどる。元気のいい運動部が各々励むさまが、今日はやけに爽やかにうつくしい。ひたいの汗を拭いながら職員室のある、旧校舎へ向かっていたときだった。


「っいた! ゼロス!」
「! 先生って呼びなさい!」


条件反射で振り向いたその先、渡り廊下を挟んだ花壇の前に、ストーカー、ロイド・アーヴィングは立っていた。冷や汗たらり、もう一度、逃げようとした足が止まる。視界の端、走り来るアーヴィングの背後、白い線が通ったのだ。


「っ・・あぶ、ねえ!」


一歩、二歩、渡り廊下を踏んで、跳んで、抱え込んで。頭をぐいと抱き寄せた手の甲を、白球が掠めてひりりとした。校舎に当たった野球のボールは壁に当たって数度はね、来た方にのんきに転がって行った。慌てた野球部員がいそいそとこっちに走ってくる。


「ゼ、ゼロ・・ス、」


腕に抱かれたアーヴィングがおどろいた、おびえたような目で見上げる。鳶色の癖毛が不安げに揺れた。俺は苛立ちをたたきつける。


「このっ、バカ! 周りくらい見ろもうちっとで怪我するとこだっただろうが!」
「ごっ、ごめ、ごめん、なさい・・・」


反省の目が揺らぐ。しゅんとうなだれ、唇が震えている。庇護欲をつよく、引っ掻いた。


「ごめんなさい、俺、もう、追いかけたりしな「っもういい、俺のそばにいないと心配だから近くにいなさい。もう、逃げも隠れもしねえから。・・・・いいな?」」


はいと、短い返事は掠れていて、うつむいた頬は赤く染まっていた。どくりとひとつ大きな音を立てた心臓に俺はやるせなさを含んだ諦めを感じた。


(ああ話に聞いた先輩方、今俺も、そちらにゆきます)




+++
おおつかあいのロケットスニーカーが好きだったから
内容はあまり関係ないがタイトルの方
!ごめんなさい無自覚って忘れてました・・!すみません;