Assistenziale
   (現代パラレルです)













電話、つながらない。


無力な携帯をぱたんと閉じれば、気づかなかったけれど雨脚は強まっていた。アパートまではあとすこし、同居人はシカト状態。降りしきる寒さと何度か相談して、しかたなく安全なタバコ屋の軒を抜け出し寒空に駆け出した。


吹きつける氷雨は器用にマフラーの隙を縫って侵略してきたけれど家で待っているであろう間抜けな寝顔を思えば不思議と冷たくはなかった。雨で午後の講義がなくなったせいで早まった帰宅に、すこしだけおどろいて、それから何もなかったようにおかえりという様を考えると口元が緩む。スニーカー、雨を吸って重い。それでも水をはじく足取りは軽かった。


風を裂いて雨を打ち破ってようやくアパートまで帰ってきて、呼気をととのえる。ぶるりと震えた。(風邪引く前に、風呂、入んねえと、)

雨避けに使った鞄の水を払いながら、足元の不安定な階段を登る。カンカンと喚くのがやけに耳障りだった。


二階、一番奥の部屋、1DK。

すこしばかり手狭だったが気に入っていた。大の男ふたりで住むには難があったがそれくらいがちょうどよかった。互いになにをしているかわかるくらいの距離は安心したし、時おり年甲斐もなく、窮屈を理由に抱きついてくるのは本当は嫌じゃなかった。

そんなごくつぶしのことだ、どうせ今日も仕事もせずにのらくらしているのだろうと思いながら鍵を回す。・・・・開いていた。


―――胸騒ぎ、唐突に


嫌な予感がした、よく、よく見知った類の。

俺は出かけるときちゃんと鍵を閉めたはずだ、そしてあのぐうたれはこんな雨の日に外になんか出ないはずだ、宅配便の覚えもない、


(・・・・まさか、な、)


そう思いながらも、ドアを開けるのは躊躇われた。蘇る記憶、一年十一ヶ月分。

浮気の数は星よりも多く、喧嘩の回数はもはや天文学的な数字になっていた。だけどさすがに付き合いも長くなればその癖も矯正されてきたようで、ここしばらくはそんなことに気を揉むこともなかった。それなのに、ただめずらしくドアが開いている、それだけで、


(なに、戸惑ってんだ、おれ、)


つかんだまま回せないドアノブ、弱まる雨。(ああくそ、空気を読め大気を読めこの雨野郎!人の不安くらいとっとと消しやがれ、)

シャツの合間マフラーの隙、染み込んでゆく寒さに不安にああ苛々する。


それでも意を決してぐいとドアを引いて、反射的に瞑っていた目をそっと開ければ、いつもと何も変わらない景色に拍子抜けする。

無造作に散らばったみかんの皮、じんわりとあたたかい部屋、そしてこたつでだらしない顔して寝入っている、同居人。

安堵に膝の力がふと抜ける。崩れ落ちた音に眠っていた男は目を覚ました。ぼんやりと視線を移ろわせて、そうして、


「・・・ん・・あー・・・・・おかえりィ」


寝ぼけているのかなんだか知らないが、アンタ、なんだ、そんな、そんな顔、しやがって、(この世の幸福独り占めしたみたいな目、しやがって!)・・・・・うれしいだろうが、ちくしょう。

帰ってきただけでなんだかやたら嬉しそうにのろのろ纏わりついてくるから、気味がわりいんだよと蹴り飛ばす。痛いじゃないのよと文句を言ったがその目は怒っていなかった。


いつもと同じ半纏を着て、外に出たようすのないのを見てから、今日なんかあったのかと聞いた。同居人はのんびりと、米がきたよという。なんだどういうことだと部屋を見渡せば台所の隅、小さなダンボールをみつけた。おそらく寒くなってきたから心配した実家から送られてきたのだろうとわかって、ようやく合点が行った。

同時に水びたしなのを思い出して、首筋がひりついた。素直な身体がくしゃみで訴える。


「んあ、ちょっと、びしょびしょじゃねえのよだいじょーぶなの?」
「風呂、はいってくるわ」
「ちょいまち、」


通り過ぎようとしたら腰を抱きかかえられて捕まえられた。引っぱられてずるずると、腕の中に閉じ込められる。このへんたい親父と罵ろうとした口が止まる、というより、止められた。追い詰めてくる舌を何度も避けようとしたが叶わなかった。(あつ、い、)しばらくそうして、息の切れるころにようやっと解放される。荒い呼吸を繰り返しながらにらみつければ、にへらとわらった。


「あっためてやろうとおもって!」
「っ・・・!ば、か、じゃ、ねえの!」
「だってなんか今日はやけに早ぇから、おっさんうれしくなっちまったのよ」
「!(・・・・・気づいてたのかよ)」


にやにや、締まりのない表情が腹立たしい、(もーちょっとましな顔はできねえのかよ、つうか、腰を撫でんなこのへんたいが)


「あ、抵抗、しないんだ?」
「・・っるせ!」
「かあいいね、ユーリ」


濡れた頬に触れた指先、こたつに入っていただけあってあたたかかった。ほっとした。もう疑ったりする気持ちはなかった。


「・・・・・レイヴン、」
「ん、」
「わるかった」
「へ?なにがよ、」
「なんでもねえ!・・・つづき、しないのかよ」
「してほしいの?」


調子に乗るな、いつもならエルボーのひとつでも喰らわしているところだ、けど、(・・・・・・・・今日だけは、大目にみてやる)


シャツの釦を外しながらレイヴンがいう、今日のばんごはん、すき焼きがいいなあ。聞こえなかったふりをした、でも、作ってやろうとおもった。

ああそうだすき焼きでもつつきながら言ってやろう、すこし広い家に、越さないかと、





(だってもう狭い家で無理に安心をつくる必要なんてない)













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今後はS,Aメインで!と言ったあとにもかかわらず、Vです←
いまたぶん中盤でまだあまり話が見えてないので、とりあえず現代にしてみました
ユーリ大学生、おっさんはなんか家でできるパソコン仕事とかしてればいいなあ


Vはカロユリが好きです(じゅうにさい、かける、にじゅういち・・!なんて恐ろしい12歳・・・)
フレンはとりあえず今のところ保留です。しかし、どうもスザルル的な、匂いがする・・・・