(悲しき哉、愛のすれちがい!)





「おっさん、いつまで祈ってんの」
「・・・え?あー、すまんね、この年になるとまァいろいろあるもんで、」


うす笑いのごまかしに、ユーリは機嫌わるそうに背を向けた。みくじ!短く言って歩き出すのに手を伸ばした。


「ちょっと青年、待ちなさいよ、」
「待たねえ」


遠ざかる背中、一瞬の沈黙のあと、ぐらりと揺れる。つかまえようとして空を切った手を、もう一度あわてて伸ばした。・・・・間に合った。左手で掴んで右手で抱き寄せて、転びかけた身体をうしろから支える。参拝に階段を登ろうとしていた親子連れがちらりと見た。はははと乾いた笑いで会釈して、マフラーをつかんで横に連れて行った。


小さな神社、おだやかな人の波を抜けて、こじんまりとした神木の下に。引っ張られたユーリはいくらか不服そうに腕を払った。その足元にしゃがみこむ。あ、と頭の上から声がきこえた。


「くつひも、」
「解けてるから待てっていったのに、」
「・・・・わりぃ」


ハイカットをてきとうに折っているせいでやたらと長いのを捕まえて、きゅっきゅっと結んでやる。ユーリは身じろぎした。ああほら動くんでないのと注意すれば、おとなしく直立不動。ついでにもう片方のすこし緩んでいるのも直してやる。


「・・・おっさんに世話を焼かれるってのは、変なかんじがするな」
「はは、いつもお世話になっておりますユーリさま」


茶化したのにめずらしく、呆れたような返事はない。結び終えて見上げると、ユーリはパッと目をそらした。


「なによ?」
「・・なんでもねえ(意外とわるくない、なんて、いえる、かよ!)」
「新年早々かくしごと!おっさん悲しいなあ!」
「勝手に泣いてろバァカ」


そう言ってスタスタと歩き出したのを追えば、ふと、ユーリは立ち止まって、くるりと振り向いた。それからキッとにらんで、


「おっさんこそ、やったらうれしそうにいつまでも願い事しやがって、・・・なにかんがえてたんだよ」
「え、(えええ機嫌わるいとおもったらそんなこと、)・・・・・・・うーん、それ、は、いえないかも、ねえ」
「・・・・おっさん今日、雑煮なしな」
「そんな殺生な!」


もう振り返ってもくれない青年は、正月だというのにああなんて世知辛い!・・・うう、風がつめたい。






(願い事が、青年とのことばっかりだなんて、こんなおっさんが言ったら犯罪でしょうが!)








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