リヒターはいつも湖のほとりで泣いています。リヒターはとってもかなしいのです。とってもとっても悲しいのです。

なぜならお友だちにプレゼントした料理で、いつもお友だちを重体に陥らせてしまうからです。本当はお料理をつくるのが大好きなリヒターは、だから、とってもかなしいのです。

グラタンをプレゼントしたジーニアスは、その日から口を利いてくれなくなりました。

ケーキをプレゼントしたプレセアは、その日から目がうつろになり、時間が止まってしまいました。

アリスにプレゼントしようとしたパスタは、デクスが身をていして守り、口にして、犠牲となりました。デクスはお星さまになってしまいました。今も遠いお空で輝いています。


リヒターはとってもかなしいのです。お友だちはどんどんまわりからいなくなります。自分がみんなを不幸にしてしまうのです。

リヒターは湖のほとりで今日も泣いています。ここならもしも誰かが来たって、顔を洗っていたんだとごまかせるから、ここで泣きます。

でも、誰もこないことは、じぶんがいちばんよくわかっていました。それがなおさら、かなしいのです。


ある日、湖面から不意に金色のひかりが飛び出してきました。それは湖の精霊、アステルでした。いつもひとりぼっちで泣いているリヒターを心配して、やって来たのです。

「ねえきみ、どうしていっつも泣いてるの?」
「…うるさい、あっちにいけ」

慌てて眼鏡の下の両目をこすりながらリヒターは愛想なく答えました。けれど人好きの精霊はやけにしつこく、ねえねえどうしたの、なにがあったのねえねえと、その顔をのぞき込んできます。

とうとう耐えかねたリヒターはしかたなく、これまでの事情をアステルに話しました。するとアステルはほがらかに笑います。

「なあんだ、そんなことだったのか、わかった、それじゃあ僕がリヒターの料理を食べてあげよう。そうしたらきっと上達するにちがいないよ」
「! でも、でもそんなことをしたらっおまえっ、おまえは…!」
「大丈夫、さあ、つくるんだリヒター」

リヒターは悩みましたが、アステルの力強いことばにうながされて腰のフライパンと包丁をふたたび手に取りました。

アステルは精霊なので、リヒターの料理を喰らってもへいちゃらでした。何度食べてもへいちゃらでした。リヒターの腕前はちっとも上達しません。精霊であっても味覚はあるので、口にすればそれはとてもとてもおいしくないのですが、それでもアステルは毎日残さずたべました。 ちょっと塩が多かったかなあ、今日のは昨日よりいいと思うよ、毎日毎日、アドバイスもしてくれます。

リヒターはもう泣きません。お料理をつくるのにいそがしいからです。

森のおともだちはリヒターが料理をしているところにそっとやってきました。

「みんなね、リヒターが泣いているから心配で、ずうっと木の陰からみまもっていたんだよ」

リヒターはもう泣きません。お料理は、たまに、じょうずにできたときだけお友達にあげます。

いつかとってもお料理じょうずになって、森のみんなをパーティに呼ぶことが、リヒターとアステルの、いまの夢なのです。



(2010.0628 菜園無配)