もうやだ、苛々する、
料理当番がいっしょじゃないとか、だれかにアクセサリを作ってあげるだとか、そんな、ささいなことにまでむかついてしまう。(だってあまりにたくさんの人間に好かれているものだから)
このままじゃ本当にやばいと、おもっていた矢先のことだった。旅の合間、レアバードのメンテナンスのために、久々、ふたりで出かける時間ができた。ロイドくんが買い物に行きたいというから市に出かけた。何を見ているのだろうと覗きこめばおもちゃのけんだま、どうしてと聞いたらジーニアスの誕生日なんだとにこにこ言われた。大人気ない、かっこわるい、わかっていたけど、払い落としてしまった。そうして困ったような戸惑ったような視線に耐えられなくて宿まで走って帰ってきてしまった。
床に崩れ落ちてベッドにぐしゃりと顔を埋めて、ああとうとうやってしまったと自己嫌悪。いつかこんな日がくるとわかっていた、(俺はいつだって独り占めしたくてたまらなかった)きっとロイドくんは俺に嫌気が差しただろう、うんざりした顔で帰ってくるだろう、そうしてこの脆く拙い恋愛関係の終わりを告げるのかもしれない。
(ありきたりに別れようといわれるのはいやだなあ、ああロイドくんのことだからごめんと悪くもないのにあやまるかもしれない、それはそれでばつがわるいなあ)
まわるまわる暗い感情、やけにしょっぱいシーツ、そして響く重い音、ああ、帰ってきた。いくらか乱れた呼吸、走って追いかけてきたらしかった。
「っ、ゼロ、ス・・・」
「来ないで、」
「っにいってんだ!急に、いなくなるから、心配した」
「(やめてよもうこれ以上やさしくしないでよなくしたときがつらいから)出てってよ、きらいだ、ロイドくん、もうやになった」
息を呑む音が、きこえた。それでも一度吐き出した黒い感情は留まる術を持たない。ぐしゃりとシーツを両手で握った。白かったのに涙が落ちて薄汚れて、ぐしゃぐしゃと醜悪なさまは俺に似ていてよけいに胃がぐるぐるする、
「嫌だ嫌なんだもう苛々するのはいやだ出てって、出てってよ、ロイドくん、いると、おれ、いらいらする、たまらなくなる、だから、はやく、」
背後では大きなため息がきこえた。ああまた困らせてしまった、後悔の味はきもちがわるい。そろりと、動く気配があった。ああよかった出て行ってくれたら俺は声を上げて泣ける。みっともなく、かっこわるく。
しかしそのあとにつづいたのはドアの閉まる無情な宣告ではなくて、すぐそば、しゃがみこんだ衣擦れの音だった。振り向かない、振り向けない、面と向かって断ち切られるのはこわすぎた。
「わかった俺がそんなに嫌いならそれでいい、でもひとことだけ最後に言わせろ、好きだ」
―――ああもうほんとうにいやだそうやっておまえはまた撃ち抜くんだ、いともかんたんにひとのこころを。
ごめんうそですごめんごめんなさい嘘なんですいなくなったらこまるおまえが必要です大好きですだいすきなんです
泣きながら縋りつくと頭の上からまたため息がきこえた。嫌われるのがいやでぎゅうぎゅう腕に力をこめれば、やさしい手が下りてきた。頭を撫ぜる指先のひとつひとつまで、ああ、愛おしい、
(ごめん、ごめんね、ロイドくん、おれはとんでもない欲ばりなんだ、ロイドくんの特別になりたいんだ、ロイドくんの全部が欲しいんだ、)
俺が、そんな我儘を言ったとしもきっと、だれよりもやさしいおまえは、ちょっと困った顔をしてそれからいうのだろう、なんとかするよと。
ぼろぼろこぼれる涙をそっと、手繰り寄せたシーツでロイドくんがぬぐう。ぐしゃぐしゃだったのに、汚かったのに、それでもやはり白かった。
歪んだ純情
ひどく汚れて醜いけれど、きみおもうこころはけっきょくいつだってまっしろなんだ
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