うつくしき残酷の愛情

 ※現代パラレルです。いささか暗いです。ガイジェ要素を含みます












響いた着信音、まさぐっていた手がとまる。


身体の上の男はもぞもぞとポケットから携帯を取り出した。背けられる顔、ゆるんだ口元。砂でも吐きそうなほどの甘い声音に、黙ったまま、先ほど乱暴に外されたシャツの釦を留め始めた。


すべて留め終わったころ、通話を終えたガイがふりむいた。奪われた眼鏡をかけなおすと、だらしない表情がことさらによく見えた。酷薄な唇がひらく。


「わるい、帰ってくれ」
「わかっていますよ」


いつものことだと皮肉れば、男は困ったような顔をして小さくうなずいた。(白々しい、本当はちっとも悪びれていないくせに、)


恋人という関係だった、しいて名前をつけるならおそらく。


しかしガイという男は他に愛を注ぐ相手がいるのを隠そうともしなかったし、かといって自分を断とうともしなかった。所謂、二股というやつに近いのだろうが、本人があまりに悪気がないせいで、あまりに愛情がむこうに傾いているせいで、浮気をされているとかそういう実感はなかった。(むしろそれほどまでにこの異常な男に執着される、ルークとかいう少年に哀れみすら抱く始末だった)


付き合っているわけだから会えばキスもセックスもしたし、好きだとか愛してるだとか、恋人であるための呪文を律儀にガイは使ったけれど、とくに効果は見られなかった。べつになんら不都合はなかった。


逆に、好きだ好きだと熱心に感情をぶつけてくる輩よりは楽だったし、それなりに好かれてはいるのだろうと自覚はできたから、この奇妙な関係をつづけていた。



ベルベットの上着を着込むとガイは慈しむように頬を撫で、触れるだけのキスをした。そうしてまた、のろのろと、ごめんという台詞をくりかえした。几帳面な男だ。


玄関口、靴を履いているとうしろから抱きすくめられた。ドアの隙間からのぞく冷気に、すこしだけ嫌味な気分になる。


「ルークにも、こういうこと、するんですか?」


返ってきたのは無邪気な笑い声だった。


「まさか、だってまだあいつは子どもだぞ?」
「高校生でしょう?いい大人ですよ」
「いつまで経っても子どもさ。・・・そうなるように俺がしつけた」
「こわいですねえ」


肩をすくめると、ガイはようやく離れた。立ち上がる。ちらりと見遣ると男の思考はもう少年に埋め尽くされているようだった。帰りますといってマンションの重たい扉を開けた。




エレベータを降りると赤毛の少年とすれちがった。警戒するような視線に苦笑しながらオートロックを出る。外気がひんやりと纏わりついた。


だれより可哀想なのはルークだった。


幼い少年は知らないのだ、自分の頼る男の正体を。育て愛し手篭めにしようと目論む男の本性を。


あの男の愛は純粋が故に他者から見れば異様であり、うっすらとした恐怖だった。時間をかけて愛を与えつづけ、自分なしではいられないようにし、その成熟を待つ。(さながら愛の麻薬だ、なんと性質のわるい)


かわいそうなルーク、ゆっくりとからめとられているともしらずに、愚かな子ども。(いつか手折られる日がくるというのに、)






嗚呼なんと狂おしい紫の上計画










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