皇帝命令だと、いうとひどく不満げに、囚人はその眼鏡を外した。歪んだガラス越しでないアメジストは美しくて、どうにも満足に口元がゆるんだ。透き通った頬を撫ぜると上目に睨まれた。


「・・・悪趣味な」
「なんとでも言え、不敬罪で俺の部屋に一生閉じ込めてやろう」
「貴方には最低という言葉すら相応しくありませんね、もっとずっと酷い」
「お褒めに預かり光栄だ」


言いながら、囚人の手にした眼鏡を緩慢な動作で奪った。幼馴染は何も言わない。ただまっすぐに睨んでくる。直線的な感情は心地いい、嫌悪であっても。
皇帝の座でわざとゆったりと足を組みかえて、足元に座り込んだ囚人を見下ろしてやる。広い室内にはゆっくりと流れる水の声ばかりが反響していた。身を乗り出してその顔をのぞきこむ。


「おまえ、眼鏡ない方がマシだな、踏み潰してやろうか」
「やめてくださいよ見えないんですから」
「俺の顔も?」
「貴方の顔など、眼鏡があろうとなかろうと見ませんよ」
「ひでえ言いようだな」


だったらいっそ本当に壊してしまいたかった、こんな華奢なガラスなど。けれどそうしたら目の前の男がひどく疲れた顔をするのは目に見えているからすんでのところでやめた。
俺はこの男が眼鏡をかけるのが心底嫌いだった。




幼馴染はどちらも、眼鏡をかけるようになってから変わった。正確に言うと、ネビリム先生の亡くなってから、変節したような気がする。


ちょうどその頃二人は士官学校に入ったから、俺たちの関係は自然、薄くなってしまった。そして再会した二人はもう俺の知る幼馴染ではなくなっていた。気づけば俺にはよくわからん音素の資料を食い入るように見つめるようになったジェイド、そしてただひたすらにジェイドだけを見つめるようになったサフィール。


苛立たしかった、その視界が狭いガラスの枠で遮られているのが、無性に。ジェイドは文献を追い、サフィールはその背を追い、二人の視界に俺が入ることはなかった。後に研究をやめたジェイドの視野はじょじょに広まっていったけれど、サフィールのそれが変わることはなかった。サフィールの眼鏡に映るのはいつだってひとりだけだった。




この男は今でも、ただひとりだけを追いかけているのだ。
腹立たしい、むかつく、苛々する。こんな眼鏡は没収してやろう、返してなどやるものか。そんな意図を読み取ったように幼馴染が吼える。


「いいかげん返してくださいよこの悪逆皇帝め」
「そうだなあおまえが俺しか見なくなったら返してやってもいいぞ」
「生涯あり得ませんね」
「なら一生裸眼で過ごせ、俺は嫌いじゃないぞ、おまえの眼」
「きもちわるいことを言うのはやめてください」
「本気で言ってんのになあー」


くるくると指で弄ぶと細い眼鏡のつるがキィキィと音を立てた。憎悪すら感じさせるアメジストの、なんと心地よいことか。









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私的に、雪国はジェイド←サフィール←陛下がデフォです
なんかディストでなくサフィールと呼んでしまいます

※眼鏡祭2009より