天井は見慣れた白じゃない。ベッドがいつもより、やわらかい。頭はすこし痛んで、昨日は飲んだのが知れた。もしかして酒の勢いでまた浮気? なんて思って飛び起きて、横にはいつもの子どもっぽい寝顔があるのにひどくほっとした。
大きなベッドの上、左腕にはぼんやりと朝陽の差して、住み慣れた部屋よりもすこし大きな部屋、いくつか真新しい家具が置かれ、壁際にはダンボールがいくつも並んでいる。
(――ああ、そうか、)
昨日、俺とロイドくんは新しい家に来た。
新しい、二人の家。マンションの七階南向き、風通しも良く日もよく当たって気持ちいい、俺とロイドくんの家。
ダブルベッドを男二人の家に運び込むのはさすがに人目が気になって、古い知人、レザレノカンパニーの会長が信頼できる業者を紹介してくれたのには助かった。あとできちんと挨拶に行こうなんて思いながら、白いシーツに手をついて、寝顔をのぞきこむ。本当に二十七かと思うくらい、あどけない。
同時に付き合い始めてもう十年も経ったのかと、時間の単位が空恐ろしくなる。知り合った夏、高校生だったロイドくんは後、父親の工房に弟子入りして、そうして二十四で店を持って、小さいながら軌道に乗るまで三年かかった。俺はそのあいだずっとデスクに向かって、待っていた。いくらか昇進した俺の給料で、引越しをして二人暮らしができるくらいの経済基盤は確立されていたのだが、ロイドくんが頑なに、自分がきちんと職人として独り立ちするまではいやだと言った。正直もう待てないと思ったこともあったが、ロイドくんのそういうところも好きだったから、俺は待った。
長かった。ようやく、ようやくだ。十年の朝を越えてようやく、俺とロイドくんは家族になる。(俺、ずいぶん待ったんだぞ、)そんな俺の感動も知らず、ぐうすかと恋人は眠っている。くそ、緊張感のないやつめ、可愛いな。朝ごはんはわざとトマトスープを作って待っていてやろうか、そんなことを考えながらロイドくんを起こさないようにそっと、ベッドを降りる。すると、ふいに名前を呼ばれた。振り返る。パチリと開いた鳶色。
「あ、ごめん起こしちまった?」
「ん・・ゼロス、行くなよ」
「え?」
ゆっくりと手招き。誘われるままにベッドに膝を乗せると腕をぎゅうとひっぱられて胸から倒れこむ。スプリングが喚いた。骨張った腕が腰に回る。腹を掠めるやわらかい毛がくすぐったかった。
「どしたのロイドくん、いつもはこんな、甘えたりしねえのに」
「・・・・一人暮らしのころみてえじゃん、ゼロス朝がくるとすぐ行っちまうから」
今日からおんなじ家なのに。寝ぼけているのかすこし舌足らずに喋るのにきゅんとした。うんうんごめんねと言いながら頭を撫でてやるとロイドくんはそのうちまた眠ってしまったようだった。もう慌てて乗ることのない始発の電車は、ひどく懐かしかった。
(アレところでトイレに行きたくなってきたどうしよう)
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ポルノの、「約束の朝」を聞いてたら書きたくなりました
なんとなくそんなイメージ
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