なんてこった、逆さま鬼ごっこ、

のそのそ弁当箱に箸を伸ばしながら、いつから自分が鬼になったのだろうといらいら考える。答えなんて誰に聞かなくてもわかっていた。あの日だ、あの日、ロイドが女子に告白されようとしている現場で出くわしてしまってからだ。

次の日から徹底して避けられるようになった。見られたのがそんなに嫌だったのだろうかとかそれとも俺がなにかしたのだろうかとかぐるぐる考えたけれどこっちの答えは一向に出る気配がない。それどころかあいつが告白に応じたのか否かという疑問まで起こってしまって、ほんとにむかつく。(俺がどれだけやきもきしてるとおもってる!)ロイドのくせに俺さまを翻弄しやがって。

捕まえたら滝のように雪崩のように文句を言ってやろうとおもっているのに、なかなかあいつは捕まらない。俺だってそう足は遅くないのに。サッカー部の馬鹿体力が恨めしい。

だいたいなんなんだいきなり!今まで俺がどんなにうざがってもついて回ってにこにこ追いかけて来たくせに、急に手のひらを返したように無視をする。(ドSかこのやろう!)

セバスチャンの作る弁当はいつだってうまかったけれど、当然ロイドのそれとはちがう味付けで、俺はますますむしゃくしゃした。元執事にはわるかったがいつもより残してしまった。むかつきと弁当でいっぱいになった腹を横たえる。

裏庭は肌寒かったけどどうでもよかった。心労と肉体的な疲労で満身創痍だった。(昨日はセレスにまで心配される始末だ情けない)・・・心のどこかで、風邪を引いたらまたあいつが来てくれるんじゃないかと期待していた。(バカか俺は)



けれどそのバカみたいな期待はすこしだけ当たった。数時間後、起きたときにはなぜかかけられていたブレザー、内側にはアーヴィングの刺繍。よく無茶をするせいで着崩れた襟からは懐かしい匂いがした。顔をうずめると、置いてかれたやさしさに泣きそうになる。反則だレッドカードだ罰としていますぐ俺のところに来いばかやろう。(なんで、こうゆうこと、するんだよ、)

本当は、嫌われてしまったのかと不安だった。苛立つ気持ちも大きかったけれど、その根底には恐怖が渦巻いていた。おそらく嫌われてはいないと知ってほっとした。(だったら、なんで・・・)

もしかして彼女ができたから俺のことは要らなくなったんじゃないかと心配だった。(ああ彼女なんて、インフルエンザにでもなってしまえばいい!)知ってしまったあたたかさを失うのはあまりにもこわすぎた。

おいしい弁当もバカな会話も快活な笑顔もない学校は寒すぎた。ロイドのいない日常なんてなんの色も持たなかった、そんなものを日常と呼ぶこと自体まちがっていた。

持ち主の欠けた上着を抱いて、目蓋の熱いのをこらえる。

なぐさめるように、どこからともなくボロがやってきて足にたわむれた。春先、捨てられていた三毛猫。俺もこいつとおなじように捨てられるのだろうか。そんな、冗談じゃない。

「・・・・いまさら、捨てんじゃねえよ、バカ」

拾って看病して餌付けまでして懐かせたくせに、(―――これだけ、ひとのきもちを奪ったくせに、)


三毛猫は俺のことなど素知らぬ顔で行ってしまった、結局ネコはネコだった











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