現代パラレルです。ゼロスの性格がひどいのでご注意ください







ドアをしめて、言いたいこともなにもかも、冷蔵庫にとじこめた。(いっそこのきもちも凍ってしまえばいいのに)

用意した夕食が手もつけられず冷気のむこうに消えるのはよくあることだった。ラップを巻くのも手馴れたものだ。

昔と比べずいぶんと気丈になったけれど、それでもこのままキッチンにいるのもいたたまれずに、玄関に通じる廊下を歩いてじぶんの部屋にもどった。




自室に逃げ込んでベッドにもつれこむとまた脳裏に浮かぶ人間がある。

ぐるぐるの巻き毛、きもちわるいどピンクの爪、吐きそうなほどキツイ化粧。(・・・・バカっぽい女、)同居人が肩を抱いて帰ってきた女は、いつも以上に趣味がわるかった。そしてふたりは相当に酔っていた。俺をみても同居人はなにも言わず、あろうことか目の前で胃がむかむかするようなキスをして自分の部屋に入っていった。


さいあくだ、


思想の混沌が頭を押し潰し喉を経て食道を侵し胃を掌握する。最近、いつか胃痛もちになるのではないかと本気で心配になってきた。

そもそも同居人がわるいのだ、女好きでだらしがなくていつだってちがう女を連れ込んで。(汚れたシーツを洗うのがだれの仕事だとおもっている)そしてそういう日はほとんど酔っ払っているものだから、どれだけ気合を入れて夕食を作ったところでそれは悲しいかな「昨日の残り物」という末路を辿るだけ、俺はひとり虚しく冷たくなった料理に同情しながら慰め程度に箸をつけるだけ。(壁一枚むこうであいつが知らぬ誰かを抱いていると想像するのは実にすばらしい食欲減退をもたらす。おかげで体重は減少の一途)たまにむこうの声が漏れることもあるから、たいていはこうして自分の部屋に立てこもる。

ああ本当にさいあくだ、あんなのと同居しているなんて。・・・しかし腹が立つことに、最もわるいのは同居人ではなく俺だった。まだ高校生のくせに立派に遊び人として繁華街をあるく頭のかるい本当にどうしようもない男に、惚れてしまった俺だった。女と戯れるのをみるだけで神経がおかしくなりそうなのに、それでもそばにいたいがために一緒に住んでいる俺だった。


胃がぐるぐるしてきた、どうしよう、


ぐしゃぐしゃとシーツにもぐりこんで、腹を押さえる。しばらくもぞもぞと寝返りを繰り返していたがやっぱりきもちわるい。寝ようとしても、ねむれない。気に入りの音楽を聴いてみても、変わらない。気晴らしになんてことないメールを友だちに送っても、返事がない。むしろ胸のむかつきはひどくなる一方で、しょうがない水でも飲むかと、深夜、部屋を出る。

静まり返った廊下をひっそりと進んで、ガラスのドアを開ける。と、すぐ左手のドアもひらく。視界にはためく茶褐色。あ、とおもったときには目が合った。一糸纏わぬ女は瞬時に頬をカッと染めて、射殺すような目で俺を睨んだ。化粧が剥がれた顔はいっそ詐欺だった。そうして勢いよくバタンと扉をしめる。汗に汚れた肢体が不快だった。(俺だって見たくて見たわけじゃない、不可抗力だ。というか人んちなんだからとりあえず服を着ろ服を)


ああもう腹立たしいきもちわるい吐き気がする


やっぱり予定は変更だ、こういうときは水ではいけない、酒を飲もう。こういうどうしようもない日は飲んだ方がいい、全部吐いてしまった方がいいのだ。

酒はあまり飲まない俺が冷蔵庫から選んだのは、俺の好きなサワーの缶ではなくあいつの好きなワインだった。