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めずらしくゼロスの方から呼び出してきたから、俺は急いで裏庭に行った。ゼロスはすでに猫とたわむれながら待っていた。俺をみつけて、軽く手を上げる。 猫を挟んでとなりに座ると、ゼロスがメロンソーダを取り出した。ゼロスが気に入ってよく飲んでいるやつだった。 「?なんだよ、」 「礼。こないだ風邪引いたときの。・・・ありがとな」 「え、あ、んと、もらって、いいのか?」 「うん、一口」 「っひとくちっておっま!こころ、せまっ!」 「ははは、冗談だっつの。ほら、やるよ」 ぽいと投げられたのを、慌てて受け取る。ペットボトルが大きく揺れた。飲み口に白い泡が溜まる。 「あ!ばっかやろ、炭酸投げんな!」 だいじょぶかなと確認しているとゼロスがちいさく笑う。なんだか今日はやけに機嫌がいい、というか、距離が近いような、気がする。 「ゼロス?今日なんか、変だぞ?なんかあったのか?」 すこし考えているようだった。言葉を選んでいるようにも見えた。メロンソーダの泡のなくなる頃、ようやくゼロスは口を開いた。 「看病はね、いつも、する側だったんだ」 「・・・え?」 「妹が病弱で、ガキの頃からいつだって俺が世話してた。親は俺たちに無関心で、執事に任せっきりだったしね。それで、風邪引いても何しても、ひとりで我慢する癖がついちゃってさ。・・・そのせいかな、この前、お前が来てくれたの、・・・・・・けっこう、嬉しかったんだぜ?」 ぽつりぽつりと語られるゼロスの生い立ちに、俺はしばらく言葉を失った。ゼロスが微笑する。 「はじめてなんだぜ、俺、こんな話、他人にするの」 「俺に・・話したりして、よかったのか?」 「・・・・おまえなら、いいとおもったから」 まっすぐ、目をみつめて告げられた言葉に、すこし、目が熱くなった。 「じゃあ、さ、放課後の用事ってのは、」 「妹の見舞い。中学の頃からずっとだから、付き合いわりぃって、クラスの男子の中でも浮いてさ」 それで結局、こんなかんじ、とゼロスはこともなげに言う。けっして楽しい思い出でも、望んでそうなったわけでもないだろうに。 「・・・ごめんな、こそこそ後をつけたりして。触れられたくなくて、当然だよな」 「いんだって、もう気にしてないから」 んー、と腕を伸ばして、ゼロスは空を見上げた。 「こんな風にさ、だれかに話す日が来るなんて、おもってもみなかった」 「・・・・・うん」 「話せてよかった。・・・ちょっと、軽くなった」 「・・・そっか、」 見上げる空は季節の移り変わりにくもっていたけれど、雲はすこしずつ開けていた。 いつか晴れ渡る日がくればいい、光が差し込んで、キレイに晴れればいい―――それから、ちょっとだけわがままを言うなら、 (・・・・・そのときとなりに、俺がいればいいのに) ← top → |